リーマンショック以来の2年間、IT技術者は企業のIT投資削減の影響でリストラに怯え、クラウドの登場で自身の技術の陳腐化を憂い、中国、インド技術者との競争にしり込みする日々であった。この先否応なく巻き込まれるグローバル大競争の時代に、どう生き残ればいいのか?本連載を通じて、ITサービス企業とIT技術者に問いかける。第4回は、IT技術者が将来のためにすべきことを紹介する。
これからのIT技術者の役割は?
IT技術者やITサービス関係の企業を取り巻く今後の環境は、明らかに今までとは異なってくる。より厳しい競争、より高い要求が求められるのだ。このような激動に近い変化の中で勝ち残るには、企業経営者はもとより、IT技術者個人も従来の慣習や既得権を捨て、自らマインドセットを変えて活性化することが絶対条件である。
それでは、これからの時代のIT技術者の役割は何か。一部の研究開発型技術者やセンターの運用技術者は例外となるが、一般的には次のように定義してみたい。
これからの時代のIT技術者の役割
=新しいITシステムの提案+実現者(実行者)+利用促進のエバンジェリスト
別の言い方をすれば、人間社会とコンピュータ世界の架け橋であり、IT技術を身につけてなお、人・組織・社会との間合いを詰めて人間臭い能力を高めることに他ならない。このためには、「社会人基礎力」を磨くことが必要だ。
図1に示す通り、2006年から経済産業省が、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎能力として提唱している。
これは「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素からなり、意識的に育成していくことが重要になってきたと唱えている。ここで指摘されている能力を身につけ強化することが「望まれるIT技術者」に近づくことであると断言できる。すなわち意識知、行動知、専門知をバランスよく兼ねそなえることだ。
社会人基礎力を磨こう
極論を言わせてもらえれば、現在のIT技術者は「人と交わりを持ちたくない」、「画面を通じてコンピュータと会話するほうが性に合っている」と考えてIT技術者を目指してきた人が多いような気がする。その上、企業システムの構築、メンテナンスや運用に携わる技術者の職場環境は受身で動くことが多いので、社会人基礎力を磨く機会がなかったともいえる。そのため、前に踏み出す力、考え抜く力が弱くなっている。しかしながら、この力はクラウド時代/グローバル時代を生き抜く上で、もっとも重要な能力なのである。
もちろん、第1回の終わりで述べた業界構造の上位層に位置する企業や技術者も安泰ではない。「かなり高いハードルが待ち受けている」と書いたのは、この点である。毎日の生活や日常の仕事の中で、IT技術力を高め、さらに社会人基礎力を高めるために努力してほしい。
IT技術者に不可欠な動機付け
しかし望まれる技術者像がイメージでき、IT技術者がそれを意識することは重要だが、それはスタートラインに立っただけのことである。ゴールに向け走り出すには、所属する企業や組織が活性化の施策を講じることも欠かせない。このような活性化は必ずしもIT技術者だけのことではないが、これも第1回で述べたように、いまや彼らの立ち位置や存在感は不安定な状況にある。気持ちを強く持ち、自信と誇りを取り戻して、来るべきIT社会を担ってもらうためには、この活性化も絶対に欠かせない。活性化のためにまず重要なことはモチベーションの向上にあり、それにはダニエル・ピンクの「モチベーション3.0理論」が参考になる
ダニエル・ピンクは1964年生まれのアメリカ人で、経済変革やビジネス戦略を人間の感性面から研究をしている。そして、人間を突き動かす3つのモチベーションを、
- モチベーション 1.0
- 生きるための動物的欲求に基づく動機
- モチベーション 2.0
- 社会生活の中で「アメとムチ」による動機付け
- モチベーション 3.0
- 内発的動機付け
と定義している
その中で近年の成熟した社会で一番効果的な動機付けであるモチベーション3.0は、IT技術者の活性化にも最適である。なぜIT技術者に最適なのか。従来からITシステムの構築や運用局面では、技術者個人の応用や踏み込み、判断などが重要で、それが生産性の向上や品質の向上に寄与していたことは周知である。
またITの効果を決定付ける現場からの創意工夫、ユーザーの課題を発見し解決策を講ずる意欲、変革に反対する保守層を説得する粘り強さなど、行動を生むにはモチベーション3.0の「自発的(内発的)動機」がエネルギーになる。これは、他人から強制されて生み出されるものではない。さらにIT技術者の成長を促すには、できること、やりたいこと、やるべきことの3つの輪の整合性を合わせることが望ましい(図2)。
現実の企業で大勢の人を対象にこのような運営はかなり難しいが、企業が挑戦する姿勢があれば、それ自体で技術者のモチベーションが高まることは間違いない。
やりがいある仕事へ
ジョブ・クラフティング※1という手法がハーバードビジネスレビュー※2で紹介されている。自分の仕事を自分自身で再定義し、「やらされ感のある仕事」から「やりがいある仕事」に変えるのだ。自分なりに仕事の意義を定義することは、確かに工夫改善の元になり、自らの関与が強くなり、そして仕事に対しては当事者意識が高まることは間違いない。
以上、IT技術者が強化すべき幾つかのスキルと能力、そしてそれを十分に発揮するための活性化策を述べてきた。いま活躍しているIT技術者や今後IT技術者を職業として選ぶ人たちが、現在起こりつつある変化を乗り越え、海外人材とも対等に渡りあって、来るべきIT社会に貢献されんことを願う次第である。
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