プラットフォームは1世代前だが
ゲームでもしない限り不満は少ない
「安い」というと「作りが悪いのでは」と思われそうだが、そうではない。Vostroのキーボードは平均的な作りで、十分実用的なサイズとタイプ感といえる。個人的には、Vostroに採用されているような右端に[Page Up][Page Down]キーがあるタイプのレイアウトは好きではない。だが、タイプミスの元となりやすいEnterキーなどが大きめになっているため、この点はことさらあげつらうほどの欠点とはいえない。ボディー剛性が高く、キータイプ時に「ヨレ」を感じにくい点は、むしろ美点といえる。
放熱性能も優秀だ。アルミボディーは熱が伝わりやすいものだが、Vostroではあまり熱を感じない。長時間使用していても、キー部やパームレスト、また底面も、さほど熱くならない。
CPUに超低電圧版(ULV)を採用していることから、そもそも発熱が小さいという点もある。また、放熱口がコネクター同様に、本体の真後ろに向いているため、手が触れる範囲に熱い排気が触れないということも、不快感を感じにくくする理由となっていると考えられる。
排気ファンが小さめであるためか、放熱が大きい時にはファン音が耳につくが、気になるのはその点くらい、というところだろうか。
Windowsエクスペリエンスインデックスの値は「3.3」。評価モデルはCPUにCore i5を搭載したモデルであったので、CPU的にはほとんど問題ではなく、ボトルネックはGPUである。
この点でおわかりのように、Core i系とはいうもののプラットフォームは1世代前の「Calpella」プラットフォームで(CPUはArrandale)、「Sandy Bridge」こと第2世代Coreプロセッサーではない。そのため、GPUのパフォーマンスはどうしても低く感じてしまう。
だが、3Dゲームでもしない限りは、この性能で大きな不満を感じるレベルではないし、そもそもこの製品で「バリバリゲームをしよう」というのもニーズが違う。発売が2010年末なので、プラットフォームが前世代なのはしょうがない、とあきらめるしかあるまい。
逆に言えば、この価格性能比が実現できたのは、ライフサイクル末期のプラットフォームを採用しているがゆえ、と考えることもできるだろう。
バッテリーは取り外し不可
「4時間」までのパートタイムモバイラーに
Vostroのデザイン面の特徴として、もうひとつ指摘しておくべきことがある。それはバッテリーが取り外せない構造になっている、という点だ。デルの製品としては、デザイン特化であった「Adamo」に近い、といっていいかもしれない。
「モバイルノートでバッテリー交換ができないのは不安」と感じる人もいるだろう。だが、筆者はその点をさほどマイナスとは考えていない。「このおかげでスマートなボディーが実現できているのだ」と考えるからだ。
バッテリー駆動時間は、カタログ値では4時間30分程度。バッテリーベンチマークプログラム「BBench」を使った実測では、約3時間10~30分といった値となった。1日中外出先で使う「完全モバイルノート」として使うには不向きな値だが、ちょっとした出張が中心、というレベルであれば我慢できる値だ。増設バッテリーを用意してくれれば実用性は上がったと思うのだが、「価格」の前には再度口を閉ざすしかあるまい。
BBenchによるバッテリー駆動時間テスト | |
---|---|
省電力設定 | バランス設定 |
約3時間36分 | 約3時間10分 |
「企業向け製品」とはいうものの、Vostroは個人でも購入できる製品だ。そのため、大企業向けに位置付けられる「Latitude」ブランドに比べると、vProテクノロジー対応が弱いなどの点で見劣りする。しかし、企業内個人や中小企業であれば、そこまで高度な管理機能を必要としない場合も多いだろうし、深刻に考える問題ではない。他方で搭載OSは64bit版が基本になり、バックアップソフトも付属といった部分は、企業向け製品らしい部分でもある。
使ってみると「ああ、なんて普通に使える製品なんだ」と、ちょっと拍子抜けするくらい、Vostroはよくできたノートパソコンである。特別性能が高いわけでも、特別軽いわけでもない。SSDのような高価なパーツも使っていない。だから、特別な使い勝手を求める人には物足りないはずだ。
だが、十分に魅力のあるデザインのモバイルノートが「6万円を大きく下回る」価格で買えると思えば、満足感はより高くなる。この形状でSandy Bridge系ならばどれほどのマシンになるのか……と感じる部分もあるが、グラフィックス性能にこだわるのでもない限り、そこまでセンシティブになる必要もあるまい。そのくらい「手軽に買って、壊れるまでこきつかう」のが似合うモバイルパソコン、という気がする。時々持ち運んで仕事に使う「パートタイムモバイラー」にお勧めの製品だ。
- お勧めする人
- ・低価格なモバイルパソコンを探している人
- ・ちょっと人目を引くパソコンを安く買いたい人
Vostro V130(パフォーマンスモデル)の主な仕様 | |
---|---|
CPU | Core i5-470UM(1.33GHz) |
メモリー | 4GB |
グラフィックス | CPU内蔵 |
ディスプレー | 13.3型ワイド 1366×768ドット |
ストレージ | HDD 500GB |
光学ドライブ | 搭載せず |
無線通信機能 | IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 3.0 |
サイズ | 幅330×奥行き230×高さ16.5~19.7mm |
質量 | 約1.59kg |
バッテリー駆動時間 | 約4.5時間 |
OS | Windows 7 Professional 32bit版 |
価格(本稿執筆時点) | 7万4980円 |
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(共著、徳間書店)。「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)。
この連載の記事
-
第116回
PC
「VAIO Duo 13」—革新は形だけじゃない! 変形ハイエンドモバイルに込めた思い -
第115回
PC
ソニーの本気—Haswell世代でVAIOはどう変わったか? -
第114回
PC
渾身の「dynabook KIRA V832」はどう生まれたのか? -
第113回
PC
HPの合体タブレット「ENVY x2」は、大容量プロモデルで真価を発揮! -
第112回
PC
ソニー“3度目の正直”、「Xperia Tablet Z」の完成度を探る -
第111回
PC
15インチでモバイル! 「LaVie X」の薄さに秘められた魅力 -
第110回
PC
フルHD版「XPS 13」はお買い得ウルトラブック!? -
第109回
デジタル
ThinkPad Tablet 2は「Windows 8タブレット」の決定打か? -
第108回
デジタル
今後のPCは?成長市場はどこ? レノボ2013年の戦略を聞く -
第107回
PC
Windows 8とiPadがもたらす変化 2012年のモバイルPC総集編 -
第106回
PC
Clover Trailの実力は? Windows 8版ARROWS Tabをチェック - この連載の一覧へ