地デジ化とエコポイントが生む「冬の時代」
さらにテレビの買い換えサイクルが7年以上であることを考えると、この状況が少なくとも7年は続くことになるだろう。
ソニーマーケティングの栗田伸樹社長は、「国内のAV・IT市場は、2010年には約3兆円の市場規模だったが、2012年以降は約2兆円の市場規模となる。ざっくりと1兆円がなくなる計算になる」と試算する。
デジタルテレビの普及率だけでなく、市場規模の縮小という観点も、AV・IT市場が、まさに成長期から成熟期へと転換することを示すものになる。
2011年7月以降のAV・IT業界は、厳しい時代に突入するのは明らかだ。
これを「冬の時代」、あるいは「クライシス」と表現する業界関係者も少なくない。
テレビのデジタル化が、家電のネットワークの夢を実現?
だが、見方を変えると、新たな需要創出のチャンスが数多く転がっているといえなくもない。例えば、地デジへの完全移行に伴って、日本国内におけるテレビのデジタル化が一気に進んだことになる。
そして、そのテレビには、インターネットに接続することが可能なイーサネット端子が搭載されている。インターネットとテレビをつないだ新たな提案ができる環境が一気に訪れたともいえる。
現在、テレビのネットワーク接続率は約10%。だが、これが2011年には30%にまで高まるという予測もある。実際、ソニーのハイエンドテレビであるBRAVIA LXシリーズの購入者では、45%のユーザーがネットワーク接続しているという。
さらにデジタル化によって、様々なデジタル機器との接続が容易になった点も見逃せない。デジタルカメラやビデオカメラ、あるいは携帯電話との接続も容易になり、撮影した画像をテレビでハイビジョン環境で視聴するという使い方も簡単だ。
こうした環境において、映像コンテンツやゲームの配信ビジネスのほか、ネットショッピングの促進や新たな情報提供サービスの創出といった可能性が広がる。さらに、デジタル化されたテレビを中核にして、ビデオカメラなどの接続可能な周辺商品の販売にも弾みをつけることができる。すでにインフラが整っている環境だけに、どんな利用提案ができるかによって、これら製品の需要拡大に影響を及ぼすことになろう。
3D化の思惑は外れたが……
電機メーカーの本来の思惑は、2011年7月までに、3Dテレビを普及させることで、2011年7月以降は、3D対応製品の普及や、3Dコンテンツの配信などによって、新たな需要を創出しようというものだった。だが、残念ながら、それは間に合わなかった。
電機メーカーにとって、2Dのインフラのなかで、どんな提案ができるかが、これからの成熟期における生き残りに向けた最初のステップとなる。
家電量販店では、テレビの需要の落ち込みを埋めるべく、太陽光発電システムや電気自動車の販売、あるいは中国市場への進出といった新たな取り組みを開始している。もちろんそうした取り組みも必要だろう。
だが、新たなインフラをベースにした提案を、もっと積極的にしてもらいたいとも思う。せっかく、25年越しのニューメディア時代が訪れたのだから……。
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