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パブリッククラウドへの橋頭堡を築く

Cisco UCSで学内クラウドを構築した近畿大学

2010年11月02日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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学内クラウドでクライアントをホスティングする

近畿大学総合情報システム部 教育システム課 高木純平氏

 今回の学内クラウド構築のメイン用途は、総合社会学部で用いる教員・学生向けのコンピューティング環境の提供だ。複数のジャンルにまたがる総合社会学部のPCには、「社会マスメディアでは動画編集、心理系では統計解析、環境では地理操作系のソフト。語学系のシステムでは、先生と学生が対話可能なシステムや学生間で発音をチェックするシステムのほか、発音チェックや英作文の添削ソフトなどが入ってきます」(総合情報システム部 教育システム課 高木純平氏)とのことで、非常に多くのアプリケーションが使われる。

 ここはやはり大学特有の要件で、教員ごとに指定するソフトウェアが異なっている。しかも、教室移動によりこれらが変更されるので、導入するアプリケーションは肥大化する傾向にある。「このソフトウェアのメンテナンスを、180台の規模で行なうのはもはや難しい」(矢藤氏)とのことで、ネットブート型のシンクライアントを導入することにしたという。画面転送型とは異なり、ネットブート型は起動時にネットワークを介してディスクイメージをローカルに転送し、クライアントを実行するため、ネットワークに大きな負荷がかかる。

 その点、Cisco UCSでは最新のXeonプロセッサーを搭載したパワフルな処理能力に加え、サーバーとスイッチ間が10Gbps、スイッチとストレージ間も4Gbpsの帯域を確保しており、大容量の伝送が可能になっている。こうしたクライアントPC環境の提供においても、Cisco UCSは大きな効果を発揮すると期待されたわけだ。

Cisco UCSプラットフォーム上でVMwareをフル活用

 近畿大学が導入を決定したのは、2009年7月。その後シスコ日本法人での検証を終え、実際にCisco UCSの製品が到着したのは9月。それから、システム構築を行なった伊藤忠テクノソリューソンズ(以下、CTC)により、年内に検証が行なわれたという。構築は2010年2月から3月にかけて実行され、4月の新学部開設に間に合っている。

 今回の具体的なCisco UCSのシステム概要は、図1のとおりだ。

図1 Cisco UCSをベースにした近畿大学のシステム概要図

 Cisco UCSの中核となるファブリックインターコネクト「Cisco UCS 6140」の配下に、ブレードサーバーである「Cisco UCS 5108」2台が接続された構成だ。また、ストレージに対しては、SANスイッチ「Cisco MDS 9124」を介して、EMCのCLARiX(メインがCX4-240、バックアップがCX4-120)2台とファイバチャネル(以下、FC)で接続される。このストレージ上には、シンクライアント用のブートイメージや運用基盤のサーバー群のイメージが格納されている。一方、KUDOSのディレクトリサービス、ファイルサーバー、各種セキュリティアプライアンスおよび総合社会学部の教室へは、バックボーンスイッチを介してEthernetで接続される。本来であれば、ブレードサーバーからファブリックインターコネクトへの接続は、FCとEthernetの2種類が必要になるところであるが、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)を用いることで、4本の10Gbpsリンクのみに抑えられている。

 プラットフォーム全体はVMwareにより仮想化されており、N+NのHA 構成を採用することで、サーバーの負荷分散やクラスタリングにおいても予備機を用意しないで済む。さらに、稼働中の仮想マシンを別のサーバーに移動するVMotionにより、サービスの停止時間を極力短くできる。

 導入に際しては、日本に製品が入ってくるのが遅く、スケジュールがかなりタイトだったにもかかわらず、「ものすごくスムースでした。今回は、トラブルや遅延が一切なかった」(矢藤氏)とのこと。同氏は構築を担当したCTCや、導入サポートを行なったシスコに高い評価を与えている。

KUDOSデータセンター内に導入されたCisco UCS

電源とインターコネクトに接続するケーブルのみで、背面はシンプル

余剰リソースをほかの研究室にも与える

 今回は25台の仮想サーバーを構築したが、通常のIAサーバーで構築するのに比べておおよそ同じくらいのコストだったという。だが試算によると、1Uラックマウントサーバーをベースにしたシステムに比べて、設置面積は約35%減、電力消費が約50%減になり、ITリソースの効率化という点ではメリットを得られている。また、大きく期待しているのが、やはり運用管理の面だ。矢藤氏は、「Catalystと同じような環境で運用が行なえるので、わざわざ新しい知識を学ぶ必要がありません。サーバーを運用スタッフだけで導入可能なのは、管理負荷の点で大きなメリットです」と、技術者の運用負荷の軽減が大きいと語る。

 一方、シスコに対する要望は、やはりサーバーとスイッチを統合したシステム全体のサポートだという。「サーバー単体では動作するし、スイッチも動くのがあたりまえ。しかし、これらをつないだときの保証を、いままで誰も担保してくれなかった。Cisco UCSには、こうしたモジュール間の品質の担保を期待しています」(矢藤氏)。そのほか、10年を見通した長期サポートや管理ツールの機能強化もリクエストしているという。

 現在は、総合社会学部の授業用PCの提供をメインに行なっているが、今後は余剰リソースを研究用サーバー領域として迅速に提供する体制を構築していきたいとしている。

 「学内のサーバーをすべてVMware上に移設し、将来的にはパブリッククラウドと統合して利用するのが夢」と矢藤氏は語っているが、ブロードバンド化の浸透で一気に世界が変わったこの10年の移り変わりを見れば、この夢は意外と早くかなうかもしれない。

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