舞台の良さを知るきっかけにしてほしい
次にステージに立ったのは、舞台プロデューサーの片岡義朗(かたおか・よしお)氏。今回の事業でミュージカル部門を担当し、インターネットの特徴を生かした「ニコニコミュージカル」という新たな舞台制作を手がけることになった。
ミュージカルを始めたきっかけを「見たいミュージカルがなかったから、自分でつくった」と語る片岡氏は、既存のミュージカルに対するアンチテーゼとしてニコニコミュージカルを掲げる。そこで話したのは演劇そのものの鑑賞方法(収益構造)についてだ。
古く、ギリシアやローマの演劇では、劇場というのはオープン(公共的)な場所だった。だが、現代に近づくにつれて、ステージは閉鎖された「劇場空間」に移ってきた。
そうして場所を限定すれば、チケットはどうしても高くなってしまう。大きな舞台を使い良い役者を起用して「いい芝居」をつくろうとすれば、どんどんと公共性ある劇場(パブリックシアター)からは遠ざかってしまう。それは構造的なものだったのだという。
片岡氏が手がけた舞台「テニスの王子様ミュージカル」にもその問題はあったと話す。舞台のチケットは5600円。演劇界ではかなりの安さだが、原作漫画のファンである女子中学生にはまだ敷居が高い。どうしても足は遠のき、客層はさらに限定されていく。
インターネットを使うことでその閉塞(へいそく)感を打ち破り、新たな可能性を生みだすことができると片岡氏は語る。たとえばニコニコ動画の特徴「コメント」を使うことで、書きこまれたコメントがそのまま観客席にも投影されるようなしくみもできる。
そうしてインターネットを通じて演劇をふたたびオープンにすることで、「演劇というのはおもしろいものだということを知ってほしい」と片岡氏は話す。
その上で強調したのは、あくまでもミュージカルを見る体験は「有料」ということだ。そこからの収益を役者や舞台に還元していくことで、舞台芸術を持続可能なしくみにする。そのためにも「インターネットはすべて無料という考えは訂正していきたい」と話した。