話をTM5800/5500に戻そう。こちらはプロセスの微細化とCMSの更新(4.1→4.2)で高性能化を図ったモデルであるが、性能はともかく売れ行きはいまいちであった。2003年には組み込み向けをターゲットに、最大1GHzまでの動作周波数と21×21mmの省パッケージ(通常版は32.5×25mm)を採用した「Crusoe TM5900/5700」をリリースするが、採用はそれほど進まなかった。
少し時計の針を戻すと、2002年にTM5800/5500が出荷開始された直後に、Transmetaは日本で記者会見を開催。「Japan First Strategy」を披露する。ようするに、日本のメーカーにもう一度Transmetaの製品を採用してもらうことで売り上げを復活させようというものであったが、結果から言えばこれは空振りに終わる。
この当時、同社はTM5800に続く製品として、「Crusoe TM6000」と「Crusoe TM8000」を想定していた。このTM6000は、ようするにTM5800にサウスブリッジの機能まで統合したSoCであった。しかし、売り上げ不振が目立つ同社としては、TM8000と同時に開発するのはリソース的に無理があったため、結局キャンセルされてしまった。
新アーキテクチャーの「Efficeon」で復活を期すも……
TM5900のあとはしばらく間が空いた2003年10月。半導体業界のイベント「Microprocessor Forum 2003」にて、Transmetaは新CPU「Efficeon」を発表する。これはVLIWを256bit(32bit命令×8)に拡張し、動作周波数も1.1GHzと高め、さらにAGP 4xをサポートして、サウスブリッジとはHyperTransport Linkで接続するといった具合に、大幅に性能を拡張したものだ。ちなみに、当時の資料を見るとDDR-400をサポートしているはずだが、なぜか後の同社の資料を見るとDDR-333どまりとなっている。
この製品はまた、Crusoeで弱点だった割り込みまわりの性能の低さを大幅に改善しており、組み込み用途にも利用できるクオリティーのものだった。Efficeonはベースとなる「Efficeon TM8600」(関連記事)のほかに、2次キャッシュを半減させた「Efficeon TM8300」という派生型がラインナップされた。翌年には省パッケージを採用した「Efficeon TM8620」をリリースするが(関連記事)、いずれもやはり採用例は少なかった。
実のところ、Efficeonの発表時に大々的にアナウンスされていた機能に、「LongRun2」というものがある。この正体はなかなか明かされなかったが、実はトランジスターへの「ボディバイアス」の一種であることが、のちに判明している。
これを使うことで、プロセスの微細化にともなうトランジスター特性のバラつきを抑え、低消費電力動作や高速動作を可能にする、というのが売り物であった。しかし、そのLongRun2が搭載されるのは当初の130nm製品ではなく、富士通で製造する90nmプロセスを使ったものになるという話であった。
その頃にはインテルが、これにあわせて超低電圧版のPentium Mを投入していた。消費電力も大差なく性能面でも同等で、特に目玉もないとあっては売れ行きがかんばしくないのも仕方ないところで、搭載製品もごくわずかに限られた。その後2004年9月には、待望の富士通の90nmプロセスを使った「Efficeon TM8800」がリリースされる。だがLongRun2は非搭載で、結局「多少動作周波数が上がっただけのTM8600」といった形に終わってしまい、採用例はさらに少なかった。
では「LongRun2搭載Efficeonは存在しなかったのか?」というと、そういうわけでもなく、実験室レベルでは間違いなく存在したようだ。というのも、2006年5月に開催された半導体学会「Spring Processor Forum 2006」で、CEOのディッツェル氏が、LongRun2を搭載した第2世代Efficeonを202個用意し、これを使ってLongRun2の効果をレポートしているからだ。
ただ、これに先立つ2005年1月、同社はチップ製造・販売から撤退し、技術ライセンスを販売する方向に転換した。具体的にはこのLongRun2の技術であり、ソニーとNECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)が、このライセンスを取得している。
その一方で、2005年には香港のCulture.com社に資産売却と技術ライセンス供与を発表したものの、2006年2月にはその契約を終了するなど、方向性がさっぱり定まらないままとなる。2006年6月にはAMDと提携し、マイクロソフトが新興市場向けに提供する「FlexGoプロジェクト」向けに、「AMD Efficeon」の製品名でAMDが販売とマーケティングを行なうことが明らかにされた(これに関するプレスリリースが、すでにAMDからきれいに消えているあたり、黒歴史扱いされている可能性は大である)。その一方で、同年10月にはインテルを特許侵害で訴えるあたり、もうとにかく金を入手するためにはなりふり構わない、という姿勢に見えるのは、恐らく間違っていないだろう。
最終的に2007年2月に同社は技術サービス部門を廃止して、IPライセンス供与に特化する。この時点でほとんどのエンジニアは同社を去り、翌月にはディッツェル氏も同社を去ることになった(ディッツェル氏は現在、インテルでHybrid Parallel Computingのチーフ・アーキテクトを務めている)。この時点でもはやEfficeonの生産が続けられる見込みは皆無となり、最終的には2009年1月、米国のファブレス半導体企業であるNovafora社に買収されてしまった。
★
こうして見返してみると、最大のつまづきはやはり、130nmプロセス移行の失敗であった。その意味では、(例えばVIAのように150/130nm複合プロセスを使ってでも)TM5500/5800が予定どおりに立ち上がっていたら、同社の運命がどう変わったかを想像するのはちょっと興味深い。
最終的にPentium MからCore Duo/Core 2 Duoと進化していったインテルの製品投入に伍して戦うのは無理だったとは思うのだが、「もう少し善戦できただろう」と思えるからだ。そういう意味でTransmetaは、競争相手に敗れ去る前に自分のミスで退場していったと言えるだろう。
今回のまとめ
・Linuxの開発者リーナス・トーバルズ氏を雇用したことで注目を集めたTransmetaは、2000年1月に低消費電力を売りとした「Crusoe TM5400/3200」を世に出す。
・日本のノートPCメーカーに多数採用されるなど、「Crusoe TM5600/5400」はかなりの成功を収めた。しかし、続く「Crusoe TM5800/5500」の出荷遅延で大打撃を被る。
・次世代の「Efficeon」で巻き返しを狙うも、インテルが低消費電力を重視したPentium Mを投入したこともあり、優位性を失ったTransmetaは2005年にプロセッサーの製造・販売から撤退。2009年まで会社は残っていたが、買収により消滅した。
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