東京都青少年健全育成条例の改正が、「非実在青少年」という言葉と共に、ネットやメディア界隈を賑わしている。国ではなく都の条例改正がこれだけ注目されるのはなぜか。全3回にわたってその理由を解説していきたい。
「非実在青少年」とは?
条例では「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」としている。年齢設定が18歳未満である少年、少女のキャラクターの意であり、東京都の造語。
非実在青少年が話題になった経緯
そもそも、今年の2月24日に都議会が始まり、「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」が提出された頃はほとんど話題にならず、大手メディアでもまったく触れられていなかった。
しかし、3月7日に明治大学国際日本学科准教授の藤本由香里氏がTwitter経由で、この話題を取り上げた自身のmixi日記(【重要】都条例「非実在青少年」の規制について)を公開したことで、問題の重要性が広く知られるところとなった。
藤本氏のツイートはTwitterでRTされて広がり、「非実在青少年」という耳慣れない単語のインパクトも手伝って、ネットでも頻繁に取り上げられるようになった。そして永井豪、竹宮惠子ら著名な漫画家と弁護士などが改正案に反対する記者会見を開いた3月15日からはメディアでも報道されるようになり、日本出版労働連合会など各団体が意見書を提出するなど反対派の活動が盛り上がった。その結果、3月30日には都議会本会議で継続審議が決定、改正案の採決は6月の定例議会に先送りとなった。
その後も改正反対の活動は続き、民主党の西沢けいた都議は青少年問題協議会の答申案に対するパブリックコメント(パブコメ)を提出するよう情報公開請求していたが、都側は閲覧を拒否。開示日は結局、条例で定められている期限めいっぱいの60日間延長された。
開示されたパブコメをチェックしたところ、全1581件中、答申案に賛成とみられる意見はわずか16件に過ぎず、後はほとんどが反対意見ばかりであり、パブコメの意見が改正案にまったく反映されていないことが判明。さらに開示されたパブコメには、個人情報部分のみとは判断しづらいほど膨大な黒塗りが施されていた。
行き過ぎた自主規制には前例が存在
改正案がそのまま通った場合、青少年の性を肯定的に描いたさまざまな作品のすべてが規制対象となる可能性が出てしまう。これは決して杞憂ではない。
1999年、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」、通称「児童ポルノ法」が施行され、児童ポルノの販売が禁止された。その結果、紀伊國屋書店から井上雄彦作『バガボンド』や三浦建太郎作『ベルセルク』、小山ゆう作『あずみ』などの漫画が、性表現を含むという理由で一時的に撤去されている。
今回も、同様の行き過ぎた自主規制により店頭から消える作品が現れるだけでなく、出版社も性表現を含む作品は出版を見合わせ、結果、作家もそのような作品を作れなくなる可能性が高い。つまりは、さまざまな表現やコンテンツ自体が消えたり、作れなくなってしまうかもしれないというわけだ。
先送りにされた6月の再審議まであとわずか。本稿では「東京都青少年健全育成条例改正問題」について、その問題点と動向を追う。

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