2.問題点
では、前ページの第七条二、第九条の二にある「非実在青少年」、そして第十八条の六の四の「児童ポルノ単純所持禁止」が反対派から問題とされる理由は何だろうか。
規制する根拠が曖昧
→児童ポルノ、児童ポルノ漫画と性犯罪等の関係を示すデータが示されていず、規制の効果が不明。
→近年、青少年の性犯罪及び犯罪被害は減少している。
効果が不明確
→明らかな犯罪や不健全図書などに対しては既に規制・処罰する法律があり、新たに条例を改正する意味がない。
反対意見を無視した決定
→東京都青少年問題協議会メンバーは規制賛成派ばかりで占められ、規制反対派の意見を聞かず、十分話し合わずに議論が進められた。
→東京都青少年問題協議会答申素案に寄せられたパブリックコメント1600通あまりのうち、規制賛成はわずか16通ほどであり、反対意見が多いにも関わらず意見が反映されていない。
表現の自由、知る権利を侵害する
→「まん延抑止に向けた気運の醸成及び環境の整備に努める」とは、青少年のみならず成人に対しても規制するものであり、成人の知る権利を侵害する。
→不健全とされる漫画等は現行の法律(第八条第一項の「著しく性的感情を刺激する」など)で十分に規制を受けており、さらに規制が入ることで、コンテンツ産業やクリエイターなどが萎縮することが考えられる。
国の法律などに違反する恐れ
→憲法の保障する表現の自由、通信の秘密を侵害する恐れがある。都が条例で規制するのは違憲の可能性がある。
→国が定めた青少年インターネット環境整備法と齟齬する部分がある。
→児童ポルノの単純所持については国でも議論中。
影響の大きさ
→出版社やメディア、コンテンツ業者などは、過去の例から見ても条例が改正されると自粛することが考えられる(前述の紀伊国屋で漫画本が撤去された事例など)。ほとんどのメディアが東京に集中していることを考えると、規制の影響は都だけに止まらない。
→東京で条例が成立すると他の自治体も追随する可能性が高い(実際、条例改正の動きを受けて大阪府は同様の規制を検討した結果、BL雑誌の規制を決定した)。
規制の範囲が曖昧かつ、恣意的に規制可能であること
→「非実在青少年」は18歳未満のキャラクターすべてに当てはまり、「性交類似行為」の定義が曖昧かつ18際未満の定義も曖昧なため、いくらでも恣意的に表現を規制される可能性が高い。
※改正案の原文「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」
条文が拡大解釈が可能なものとなっている
→法で重要なのは条文だが、東京都青少年・治安対策本部からの説明は条文に書いていないことばかりであり、解釈は担当者によって変わる可能性があるため、いくらでも恣意的に解釈しうる。都の担当者と反対派の弁護士で解釈が大きく食い違ってしまうような条文は、そもそも条文として欠陥品であるといえる。
つまり――
■規制する根拠が曖昧であり効果も明らかではない
■一般市民等の反対意見を無視した決定
■表現の自由に対する重大な侵害
■青少年だけではなく大人の思想・表現・言論・出版等の活動を制約する
■コンテンツ業界、クリエイターなどの表現や活動を萎縮させる
■国の法律に反しており、違憲の可能性が高い
■規制の影響が東京都では止まらない
■規制の範囲が曖昧であり、恣意的に規制可能
以上が問題とされているわけだ。
規制反対派だからといって、児童ポルノなどを擁護しているわけでは決してない。児童ポルノ規制や非実在青少年の名の下に、表現の自由や知る自由などが制限されることに対して異議を唱えているというわけなのだ。
反対派が声を上げ始めてから、東京都青少年・治安対策本部から「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集」が出た。
しかし、そもそも質問回答集には何の拘束力もないため意味がない。その上、担当者の説明は条文にないことばかりであり、説明が条文と食い違っていることも多い(「明確に描写」「悪質な」「不当に誇張・賛美」などの限定が条文には存在しない)ことを考えると、この説明自体が条文が恣意的に解釈しうることの証明となってしまっていると言えるだろう。
Q:改正を阻止するために今からできることは?
A:都議会議員に規制反対という意見を明記した手紙やメールなどを実名で送付し、意見を表明し続けること(都議会公式サイト内の議員リスト)。なお、業務妨害になるのでFAXの利用は避けたい。
また、山口貴士弁護士による東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案に反対する請願署名も行なわれている。
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