卒論に追いつめられて、なぜか動画に全力投球
―― ずっと「手描きMAD」※を作られてきて、その後、突然ボーカロイドをお描きになるわけですよね。それはなぜだったんでしょう?
ゆのみ ボーカロイドのPVだと「コンビニ」が最初なんですけど、そのころはちょうど論文で追い詰められていた時期で。本当にしょんぼりした毎日を過ごしていたんですけど、そのときコンビニを聞いて、すごく楽しい気分になって。同時にストーリーみたいなものが頭の中に走ったんですね。ほんとは動画なんて作ってる場合じゃなかったんですけど。
※ 手描きMAD : 自分で描いたイラストに曲をつけ、アニメのような動画にしたもの。人気の漫画やアニメのイラストが多く、いわば同人誌の動画版。
―― ですよね、追いつめられてるのに(笑)。
ゆのみ でも、その映像が頭から離れなくなっちゃったんです。もうそれを外に出さないと卒論に集中できないと思って、一日だけ使って、曲の「1番」だけ、(映像が)白黒で線も雑な感じのPVを上げたんですよ。そのころはまだ、緑の髪をした子が初音ミクってキャラクターだっていうことはなんとなく知ってたんですけど、「機械が歌ってる」とか、「ボーカロイドが何か」とか、もう全然分かってなかったんです。だから全然、初音ミクが出てこないPVになってますね。
―― あ、なるほど! あくまで曲からのイメージなんですね。
ゆのみ どちらかといえば、歌詞のイメージですね。私の中では少女漫画を描くようなイメージで描きました。
―― 見ていても、少女漫画を読んでいる気持ちになります。
ゆのみ よくコメントで「少女漫画みたいだなー」って言われるんですけど、「少女漫画を描いてるんだよっ!」と思ってます(笑)。
―― それでゆのみさんのPVに初音ミクの絵が少ない理由が分かった気がします。
ゆのみ 最近、ボーカロイドと関係のない絵を使ったPVも、前にくらべると増えてきたようには感じるんです。でも、やはり多くの場合はボーカロイドという「枠」にとらわれがちなのかな? と感じることはあります。もちろん作品によるんですけどね。
―― 初音ミクもいいけど……って感じですか。
ゆのみ ボーカロイドが歌う曲にボーカロイドの絵を、っていうのは自然だし、それを否定するわけではないんです。ただ、それだけだとどうしても表現できないところもあると思うんですよね。たとえば、コンビニのPVもそうしちゃってたらと考えると、全然別ものになりますよね。あれはボーカロイドとは関係のない「男の子と女の子」にすることにで、より現実的なものにできたというか……。一概には言えないんですけど、(ボーカロイドと)関係のない絵を使って、関係のない世界感を作るっていうのも、アリだと思うんです。
―― 歌詞の内容によって雰囲気が合わないものもありますしね、初音ミクは。
ゆのみ 逆に、ボーカロイドを使った方がしっくり来る場合もあるわけですし。それは自分のやりたい方向だったり、曲に合わせて、みんなが自由に考えればいいことだと思うんです。それを通じて、ボーカロイド作品の世界も広がっていくんじゃないでしょうか? 私自身、それがすごく楽しみなんです。