なぜ「ペンタブのワコム」がDJ機材なのか?
ワコムと言えば、僕らが真っ先にイメージするのは“ペンタブレット”だ。実際、国内のペンタブレット市場では95.4%(2008年BCN調べ)ものシェアを持っている。そのメーカーからDJ機材とは、いかにも唐突な感じがするのだが、清水さんの答えはこうだ。
「会社の創立25周年事業として、何か新しいことをやろうという話になったんです。そこでワコムの技術を使って、音楽に関係する機材を作れないかということで、少人数のプロジェクトでスタートしました。プロのDJが使う機材を作ろうということで。アーティストが表現に使うツール、インターフェイスという点では、タブレットと同一線上にあると考えています」
nextbeatでもっとも重要なパーツは、ターンテーブルを模したタッチセンサ部分だ。指一本でセンサをスライドさせるとベンド(=ディスクの回転が上がるジェスチャー)、二本でスクラッチ(ディスクを掴んで動かすジェスチャー)として認識するなど、かなり巧妙な設定になっている。
「センサについてはタブレットで培ったノウハウがあります。書き心地を紙に近づけるためのシート素材選びのようなことも散々やっていますから。ただ、感度をどう設定するか、その落としどころは難しかったですね。現場のDJに使ってもらい、ダメ出しをもらって直す。それを何度も繰り返してきました。音響機器の設計はまったく経験がなかったし、プロがどう使うかは、僕らの想像力を超えたところだったので」(清水さん)
結果としてアナログ的な操作感が得られると上々の評判。ただタッチセンサに置き換えられたフェーダー類については、開発初期は厳しい意見も上がっていたようだ。
「フィジカル(機械式)フェーダーを付けろと現場のDJから百回くらい言われて、それが本当に悔しかった。それでタッチセンサにしかできない要素を盛り込みました。通常はスライダーで行なうテンポの微調整を、センサのタップで0.05%ずつ、長押ししている間1.5%ずつベンド、というようなことです。タッチセンサ上に複数の機能をアサインすることで、結果的に少ない数のボタンで済ませられるというメリットもありました」(清水さん)
もちろんタッチセンサの良さを生かしながら、独自の面白さを追求した結果ということで、ノブやボタンを減らすのが目的ではない。実際、サンプリングループのイン/アウト点を調整するノブのように、他機種にはない操作系も与えられている。
そのループ用に波形が液晶ディスプレイに表示されるのだが、これが精細度が高く、動きもスムースで見やすいのには驚いた。
「リアルタイムに波形を表示する関係から、ほとんどこれだけのために専用のCPUを使っています。パソコンに読ませて作った波形画像を表示させる方法もあるんですが、それだと専用のファイルフォーマットになるので。新規参入の僕らは独自仕様を押し付けても好まれないだろうということで、素のMP3でもリアルタイムに表示できるようにしたんです」(清水さん)