本気で立ち上げようと思ったら金も時間もかかる
── 今回のやり方の何が問題だったのでしょうか?
津田:著作権者の許諾を取らないで勝手に進めてしまったところがすべてでしょうね。とはいえ、現状で出版社にその手の話を持ちかけても、往々にして「うちも考えていてやりますから」と断られてしまう状況がある。それでは迅速にネットビジネスが展開できないので、エニグモがリスクを取って進めてしまったのでしょう。
出版業界には、明らかに違法な著作物が流通しているコミケを黙認しているという土壌があります。だからあまり強硬な態度には出てこないと思ったのかもしれませんが、実際には日本雑誌協会からサービスの中止要請を受けたという。
「関係ない」と突っぱねてサービスを継続していたら間違いなく訴訟まで行っていたと思いますが、結局、サービスは休止しました。今後はビジネスモデルなどでうまい提携ができるか話し合いを持つ、という感じなのでしょう。
── 日本雑誌協会の対応についてはどう考えますか?
津田 権利を持つ側のひとまずの対応としては当然だと思います。コルシカ自体は面白いサービスですが、それによってきちんと旧来の雑誌市場が成り立つのか、今後それがビジネスとして伸びしろがあって出版社への利益をもたらすのかというのは、現時点では分かりにくい。そこがはっきりしないことには出版社も話に乗りにくいでしょう。
この種のサービスを本気で立ち上げようと思ったら、はっきり言ってかなりの時間とお金がかかります。カタログの数が揃わなければ意味のないサービスですし。
「Googleブック検索」でさえ、どこまでうまくいくかわからない状況ですよね(関連記事)。コストセンターのコルシカを赤字覚悟で続ける気があるのか。そこの本気度次第かなとは思います。
新たな売り方の模索を
── 津田さん的にはコルシカをどう見ていますか?
津田:サービス自体も面白いと思うし、デジタルデータがあれば、雑誌を捨ててもあとからいつでも読めるので便利ですよね。全文検索がきちんと機能するなら、どんどんデータベースとして雑誌を買おうとも思うし。ただ、ちょっとやり方は強引だったなとは思います。
リアルの雑誌に紐づいているところはいいですよね。すごく単純な話で、例えば500円の雑誌を買うときに、あと100円プラスして600円払えばデジタルデータが付いてくるというなら、僕は600円のほうを選びます。
それは別にオンラインサービスだけじゃなくて、リアルの書店がやってもいい。雑誌が壊滅的に売れなくなっている今、そういう新たな売り方の可能性を模索する必要があるんだと思います。
── ユーザーのニーズはあるんでしょうか?
津田 ニーズという話で言えば、今、「ScanSnap」みたいなドキュメントスキャナーが売れていて、自分の手で雑誌をデジタル化している人もいますよね。ペーパーレス、邪魔な紙を電子化したいというニーズは間違いなく存在する。ただ、そういうニーズと出版社が現在提供しているサービスが合致していない。
本来はもっと積極的にデジタル化をやっていくべきなんでしょうが、出版社側も一枚岩じゃないので、そういう部分はなかなか先に進まない。今やiPhoneやKindleも日本を視野に入れてきているのに、日本の電子書籍はなかなか方向が定まらない。
── iPhoneでは電通の雑誌販売アプリ「マガストア」(iTunes Storeで見る、有料版、無料版)がスタートしています。こちらはどう見ますか?
津田:面白いサービスだと思います。ただ、雑誌をデジタル配信するときに、記事単位で切るのか、それとも雑誌全体で扱えばいいのかという販売形態が難しい。いまだにその答えが見えてこないんです。
今回の騒ぎは、今後の電子書籍のロードマップやグランドデザインを誰がどのように行なうべきかという議論を始めるきっかけとしてはよかったんじゃないですかね。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するメディアジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。11月6日には洋泉社より「Twitter社会論」を出版予定(Amazon.co.jpで見る)。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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