JIS規格にも配慮した設計
――引き出しに入る14.1インチノート!?
―― ノートPCを購入する場合、性能とバッテリ寿命のどちらを重視すべきかといったトレードオフに悩まされるものですが、ビジネス向けノートPCという点ではどのように考えているのでしょうか?
嶋崎 以前に比べて移動中、つまりバッテリー駆動で利用される状況が増えています。逆に、CPUが高速化されたので同じ時間でも作業できる内容が増えて、高いトータル性能が要求されることもあります。単に高性能が必要なら、ACアダプターを持ち歩いて電源のあるところで作業するといった考えもあるわけで、製品のバランスというか、さじ加減が難しくなってきたのが最近の状況だと思います。
ただ、標準的なCPUやチップセットを使っているので、その中でバッテリー稼働時間をどれだけ長くするかといった競争があり、ここは常に注意している部分です。
―― モバイルとなると、ビジネス向けでも重量やサイズが問題になるのでしょうか?
嶋崎 モバイルには、「移動先で(机において)使いたい」場合と、「移動中に使いたい」場合の2つのケースがあります。全体としては、モデルのバリエーションで対応するしかないと思っています。たとえば、出張などでほかにも多くの荷物があるなら、PCの重量が数十グラム違っても問題にはしないでしょう。もちろん、モバイルノート1台だけを持ち歩くのであれば、軽い方がいいという考え方もあります。
また、移動中に使うなら、新幹線の中などでちゃんと座って作業できるかどうかは大きな問題です。
―― ビジネス向けとして、特に設計時に考え方の違いなどはあるのでしょうか?
嶋崎 設計思想というか考え方という点では、大きな違いはありません。使われ方に応じて設計を変えるというよりも、品質などの点で、押さえるところはきちんと設計しておくことは、使われ方以前の問題です。やるべきことはきちんとしておき、その上で使われ方に応じた違いを出していくということになると思います。
―― では、ビジネス向けと個人向けで「品質」の基準は違うのでしょうか?
嶋崎 ものを作る技術という意味で、品質を変えることはできると思いますが、ただ安くするために品質を下げるというのは難しいと考えています。我々は、同じモデルを何万台と作っているわけで、その中には、やはり問題が出てしまうケースがあります。法人導入だと、何百台のうちの1台でしかないかもしれませんが、個人となると「1/1」つまり「100%ダメだった」ということになってしまいます。これでは、次に当社の製品を買っていただけないわけです。我々としては、努力して、こうした問題をなるべく出さないようにしているわけで、(ビジネスユースと個人ユースで)品質を上げ下げするというのは逆に困難だと考えています。
我々としては、たとえば何種類かのキーボードがある中で「これがいい」と吟味したものを採用したり、液晶パネルも明るさなどがいろいろある中でベストと思えるものを選んでいます。標準的な部品がいいのか、より性能の高いものを使うべきかといった検討を重ねたうえで、設計を行なっています。標準品ばかりを使えばコストは抑えることはできますが、特徴のないものになってしまいます。こだわるべきところとそうでないところのバランスが重要なのです。
―― 具体的にはどのあたりに気をつかって設計しているのでしょうか?
嶋崎 ビジネス利用で考えると、フルサイズのキーボードは重要なポイントです。やはり日々の作業でのストレスに直結しますから。一部のキートップが極端に小さくなるような配置ではタイプミスが出やすくなります。また、カーソルキーは一段下げて使いやすくしています。キーのタッチも注意すべきポイントです。そのほか、最近のノートPCは発熱量が多くなってきているので、パームレスト部の左右で温度差が極端に大きくならないようにも気をつけています。
―― この機種にはホコリよけのフィルターが組み込んでありますね。
嶋崎 使用環境にもよりますが、オフィスの中にもホコリが多い場所はあります。ファンにホコリが詰まると冷却効率が悪くなり、さらにファンを高速で回そうとする、といった悪循環が発生します。製品として工夫しておかないと、2、3年でホコリがたまり、冷却に不具合が出る場合があります。(ビジネスシーンでは)1台のPCが2年、3年と使われていくことを考えると、何らかの対策が必要です。これはその取り組みのひとつとして始めたものです。MGでは、側面のスリットから吸い込むようになっていて、ここ(フィルター部分)にホコリがたまるので効率的です。
―― このMGシリーズで、特にほかの製品との違いはあるのでしょうか?
新山 実はこの機種は引き出しにちゃんとしまえるよう、横幅を設計してあります。JIS規格でオフィスの机のサイズなどが決められており、その中で引き出しのサイズも定義してあるのですが、MGはそこに入るサイズにしてあるのです。14.1インチの液晶パネルを使うとサイズがギリギリで、意識して設計しないと引き出しに入れられなくなります。
最近はPCの盗難や紛失も大きな問題になっていて、帰宅時にはロッカーにしまう企業もあります。机の引き出しに入れておき、引き出しに鍵をかければ、きちんと保管できるという状況を想定しています。このためには、引き出しにちゃんと収まるサイズでなければならないのです。
◆
個人向けも法人向けも、仕上げが違うだけで済むというのは、そもそもビジネス利用が前提の信頼性の高いコンピューターをビジネスとしていたメーカーならではの考え方といえるだろう。メーカーによって製品に対する姿勢には違いがある。ビジネスPCを選ぶとき、どんなメーカーなのか、というのもひとつの選択肢といえるだろう。
この連載の記事
-
第5回
ビジネス
究極モバイルを追求した「VersaPro J UltraLite タイプVS」 -
第4回
ビジネス
文書を効率的に扱うならPDFを活用すべし! Tips編 -
第2回
ビジネス
ソニー「VAIO type Z」に見る「ビジネスPC」の真髄 -
第1回
ビジネス
「ネットブック」でなく「ビジネスPC」を選ぶべき5の理由 - この連載の一覧へ