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待て!レッドクリフIIは三国志ファンへの罠だ!

2009年07月28日 21時52分更新

文● 吉田 重戦車

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 先日、若い同僚と三国志演義ネタで話していたが、どうにも細かいところで話が噛み合わない。おまけに中村獅童の甘興が…などと言い出した。 むむ!お若いの、それはレッドクリフのことではございませぬか?


ジョン・ウー版三国志演義レッドクリフはアクション大作

 さすがにアクションで鳴らすジョン・ウー監督だけあって、ちょっとした小競り合いから大規模な合戦シーンまで見所満載。赤壁の戦いのシーンは人馬兵船だけでなく、火と水と風をうまく映像に取り込んでいて圧巻だ。見所は戦闘シーンだけではない。金城武やトニー・レオンなどの東アジアイケメン武将対決、そして中華美女対決も忘れてはならない。リン・チーリンの大人の雰囲気の小蕎もいいけど、目がクリっとしたヴィッキー・チャオの男勝りの孫尚香も見ていてかわいい。見所は兵士にコスプレし敵陣に忍び込んできた孫尚香が、作戦会議の場で腰巻きくるくるで赤壁の地図を披露するシーンだ(違うか)。ちなみにレッドクリフIIもまもなく高品質のBlu-Rayでリリースされる。

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 しかし、レッドクリフの問題点は、IとIIを合わせても劇中で描いているのが長坂橋から赤壁までなのだ。どうも三国志演義オタにとっては不満が出ざるを得ない。フランス料理を食べに行って、メインディッシュだけだされたようなものだ。前菜もデザートもなしで満足できる訳がない。三国志演義は、日没の黄河のほとりで母のために茶を買おうとして佇む劉備玄徳に始まり、最後は「死せる孔明、生ける仲達を走らす」で終わる。そのシーンまであってこそ三国志演義だ。

 ということで、レッドクリフでは描かれていないホンモノの三国志演義の世界を思い出そうではないか。


マンガなら絶対外せない横山三国志

 もちろん三国志マンガといえば蒼天航路も外せない。ただ、蒼天航路は原作の李學仁が連載途中で逝去し、当初の人物描写のテンションが息切れ気味になってしまった感があるのがファンとしては大変残念。マンガで三国志を読むなら最初に横山光輝版三国志、その次に蒼天航路という順番をおすすめしたい。

 横山光輝版三国志は全60巻の大長編マンガだ(文庫版は全30巻)。本棚を圧倒するその存在感は、まさに三国志界の戦艦大和だ。知人の中には、60巻という冊数の多さに躊躇しつつ、いつかはこれを全巻揃えるのが夢だ、という人も。

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 さらに横山光輝版三国志は、各ジャンルの三国志演義系著作物の中でも知名度が高い存在だ。ネットのスラングとして、劇中「ジャーン ジャーン」という敵軍が奇襲攻撃などで登場する際のドラの音や、驚愕する曹操の「げえっ関羽」(第26巻)、司馬懿(しばい)の「待てあわてるな これは孔明の罠だ」(第55巻)という横山三国志由来のセリフを見たことがある人も多いのではないか。


人形劇三国志なら子供と一緒に楽しめる

 次に見ておきたいのはNHK人形劇三国志。1982年から1984年にかけてNHKで毎週土曜日18時から放映されたので見た人も多いのではないか。棒使いと言われる人形劇手法で演じられているものの、劇中で生火や水を使い(当然赤壁の戦いでも)、リアリティを高めた演出手法ということで当時大いに話題となった。さらに疾走する騎馬の集団をコンピューター制御で操演したことも、当時見ていて大変な驚きだった。

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 声の配役も凄かった。森本レオの孔明、せんだみつおの張飛、そして岡本信人の曹操など、今でも彼らの声が耳に聞こえる。曹操の声など、本当に悪人らしい声を作って演じていた。会社内でも悪人はあんな声で喋ってくれればわかりやすくていい。NHKかつ子供向け人形劇ということで過激な描写もなく、安全に自分の子供の三国志成分を高める作品として最適だ。


吉川英治版三国志はラノベだ

 最後に紹介するのは吉川英治版三国志だ。戦後の三国志ブームは吉川英治版の新聞連載小説が火を付けたもの。今から20年前、大学生の頃に「吉川英治歴史時代文庫・三国志」全8巻を読んだ。元が新聞連載小説だったこともあり、大変読みやすい文章だった。

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 本文は古き良き時代の日本語なので、韻を踏んでいて読んでいてリズムがある。しかし文字がみっしり詰まっている訳でもない。手元の文庫版を見てみると、本文は意外と行間も空いていて、まるでラノベだ。見出しも「馬謖を斬る」「秋風五丈原」などとわかりやすい。今から60年前の小説だけど、古さを感じさせないのが吉川英治の凄さなのだろう。

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 ちなみに吉川英治版三国志を読む際に手元にあると便利なのが「三国志武将画伝」だ。三国志武将画伝は演義の登場人物を、歴史考証よりも劇中のイメージ中心でイラスト化したもの。主要有名な武将などはカラー見開きで、無名武将は二色刷りページで、全部で231人を紹介している。文字だけでは曖昧模糊としてイメージがどうにも湧かない武将の武装や表情を、いきいきと感じることができる好著だ。

 半年後に前述のレッドクリフの話をした同僚に「こんな良いもの見ないと損よ」くらいの勢いでここで紹介した小説、マンガや人形劇について話したら、レッドクリフをきっかけに全部目を通したのこと。知らないと思いこんでいたこちらが赤壁ならぬ赤恥というところだったのだ。

 ああ、まさに呉下の阿蒙を地でいくある日の出来事でありました…

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