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世紀の天体ショー「2009 皆既日食」 第5回

皆既日食超高精細映像ライブ中継を追う!【システム編】

2009年07月23日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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ライブ中継開始直前!
緊迫した「映像素材交換拠点」に潜入

 奄美大島の魚眼カメラでの映像や各地の映像は「JGN2plus」というNICTの研究開発用ネットワークを経由して、「映像素材交換拠点」に集められる。イベント開演の10時に先立ち、ABCホールから数百メートル離れた所に位置する朝日放送の別館にある、この映像素材交換拠点にカメラが潜入できた。

朝日放送の別館に設けられたライブ中継拠点

ライブ中継の直前ということで緊張した最終調整が続いていた

 映像素材交換拠点では、4K超高精細映像やHD映像、そしてワンセグ用映像までを統合的に扱い、大容量回線で効率よく配信することが可能になっている。これを実現するために「4K映像IPストリーミングシステム」や「4K非圧縮映像伝送装置i-Visto Gateway XG-1」、「HD非圧縮映像伝送装置 XG-2」、「広域自律分散マルチキャスト技術Flexcast」、「スケーラブル映像圧縮リアルタイム処理ソフトウェア」など、とにかくNTTが総力を挙げて伝送技術と製品を結集しているのが注目だ。

 4K映像は4K映像IPストリーミングシステムにより、最大90Mbpsにまでリアルタイムに圧縮され、ネットワークに伝送され、さらにマルチキャスト技術Flexcastを用いて分岐される。こうして分岐された4K映像はそれぞれの会場で伸張され、ドームシアターで上映されることになる。

 HD映像のほうはH.264でエンコードされ、映像素材交換拠点でいったん伸張。これをNTTのスケーラブル映像圧縮リアルタイム処理ソフトウェアで再圧縮をかけ、受信側ではHDとSDの解像度で取り出せるようにする。あとは4K映像と同じくマルチキャスト技術を用いて、多地点に配信し、HD映像はプロジェクタに、SD映像はワンセグで配信を行なう。これら映像素材は6本(6.6Gbps)の映像ストリームに集約され、14本の映像ストリームとして各上映拠点にマルチキャスト配信されるという。

 さらに4K映像とHD映像は、NTTの「120GHz帯ミリ波伝送システム」を総務省認可の実験施設として利用し、ABCホールから約400m離れた大阪市立科学館に無線で伝送している。

映像素材交換拠点に設置されたH.264用エンコーダはHD映像で用いられる

各地の日食映像の素材が並んだモニタにまとめて映し出される

右にある黒いサーバ群が非圧縮で1.5GbpsのHD映像を伝送する「XG-2」、そして左側が今回の主役級装置ともいえる「4K IPストリーミングシステム」

全天ドームに映し出される4K映像をモニタ表示していた

会場の外にデモ展示されていた120GHz帯ミリ波伝送システム

 一方、シスコはネットワーク機器やビデオ会議システムを提供。サーバ群やエンコーダなどの装置をCatalyst 3560-Eで束ね、上流のCRS-1にトラフィックを流す。また、朝日放送内と堂島のJGN2plusのアクセスポイント間はODAMというDWDM(高密度波長分割多重方式)装置を介して、10Gbpsリンクが多重化されているという。さらにビデオ会議端末やIP電話機も用意され、他拠点との円滑なコミュニケーションに利用されていた。

映像素材交換拠点の中央に鎮座するCatalyst 3750Eには各サーバや回線が集約される

ラベルには「けいはんな」や「つくば」、「奄美の受信」などと書いてある

エンコーダを束ねるラック内にはCatalyst 2970も設置

光ファイバの集約にもCatalyst 3560-Eが利用されている

映像素材交換拠点にはシスコのIP電話機や会議端末が用意されている

実際、遠隔との通話で通信状態などを確認する場面もあった

 このようにバックエンドでは映像系、ネットワーク系の最新技術・製品が世界初となる超高解像度イベントを支えていた。あとから聞いたところ、前日までは紳士協定的に帯域を融通し合っていたのに、当日突然トラフィックが発生し、パケットロスが起こる事態がこのとき生じていたという。

(次ページ、これが4K映像を映し出す全天ドームだ!)


 

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