特許訴訟と和解の関係で
C3系を2003年で打ち止め
C5XLやC5PのNehemiahコアは、1ページ目のスライド1で名前の挙がった統合型CPU「CoreFusionプロセッサー」のベースになるなど、広く使われた。また「C3-M」と呼ばれるモバイル向け製品などもラインナップされたが、VIA C3系はこのNehemiahで打ち止めとなる。
最大の理由は、インテルとVIAの特許侵害訴訟の和解条件に関係する。2001年9月にインテルがVIAを訴えた事で始まったこの訴訟は、2003年4月に和解を迎えたが、その和解条件の中に「インテルはVIAに対して、インテルのプロセッサーバスと互換性のあるチップセットの製造・販売に対して4年間ライセンスを供与すると共に、5年目に関しても特許を主張しない」(プレスリリース)というものがあった。これにより、VIAは2007年まではSocket 370のチップセットを製造・販売可能だが、その先はできなくなる事になったからだ。
そのため、CentaurはP4バス(厳密にはPentium Mに使われたバス)をベースに、いくつかの変更を加えた「VIA V4 Bus」を新たに制定する。スライド8で「VIA bus」と書かれているのが、このV4 Busのことである。
ただし、いきなり2007年に全面的に切り替えるというのは間に合わないし、実のところ2003年頃からVIAの互換チップセットビジネスはかなり低調になりつつあり、2004年頃にはスライド9のようなロードマップが公開されはしたものの、事実上新製品はこの後登場していない。
Edenで急速に成長した
VIAの組み込み向けビジネス
その代わりというわけではないが、VIAのEmbedded(組み込み)部門が急速に盛り上がっていた。特に同社が2001年に発表した、Mini-ITXフォームファクターに合わせたVIA「Eden」シリーズのSBC(Single Board Computer)の売れ行きが好調で、パソコン向け以外で急速に普及していた。
なにしろ、チップセットの場合は1組10~20ドル程度、CPUも40~50ドル程度の価格で、利益で言えばCPUとチップセットをあわせても数ドル程度なのが、SBCでは価格が1台100ドル程度で、利益もいきなり数10ドルになる。端的に言えば、出荷数量が1桁減っても売り上げや利益は変わらない事になる。
こうした状況を考えると、早めに独自バスに移行しても別に不都合はないし、無用な争いがインテルとの間で巻き起こる心配もなくなる。そんな事情もあって、2005年にはV4 Busに対応した「C5J」(Esther)コアが、「VIA C7」というブランド名で発表されることになる。
このC5J、流れからするとC5アーキテクチャーの延長線上にある。違いとしては、まず米IBMの90nmプロセスに移行することで微細化を図り、トランジスター数にゆとりができたため2次キャッシュを128KBに増量。また新機能としてSSE2/SSE3に対応したほか、暗号化処理アクセラレーターを内蔵している。
ダイサイズは31.7mm2とかなり小型化したが、これはちょっと特例らしい。というのも、MPF 2003でC5XL/C5Pが発表された際にヘンリー氏は、「トータルコストではダイサイズが50mm2程度がベストバランスになる」と述べていたのだ。
なぜかと言うと、CPUダイからは多数の配線が出ており、これをパッケージと結合するのだが、あまり小さいと配線に必要なボンディング(配線の接続部)が通常のものでは収まりきらない。すると、よりピッチの狭いものを使わなければならないのだが、これが非常に高コストになるからだ、という話であった。
実は同じような話は、ごく最近のAtomでもある。インテルのAtom Zシリーズで使われているパッケージは、下手をするとダイそのものよりもコストが高くつくという。こちらは省スペースが最優先の製品だから、多少コストが上がっても支障はないのだろうが、VIAの様に低コストのCPUを狙う場合、単にダイエリアを削るだけでは、パッケージコストが上がって意味がない。その意味では、次世代製品となる「Nano」プロセッサー(後述)が60mm2を超えるダイサイズになったため、再びコストは下がっているだろうと予想される。
では逆に、なぜC5Jでダイサイズが30mm2台まで縮小しまったのか? それは、例えば余裕を生かして大量の2次キャッシュを搭載しても性能がそれほど上がらないのに対し、トランジスターが増えることでリーク電流に起因する静的な(スタティック)消費電力も増えて、低消費電力性を維持するのが難しくなるからである。ダイサイズは大きくしたいが、そのために搭載すべき機能や回路がない、というわけだ。
それでもC5Jでは、最大2GHzまで動作周波数は伸び、また低消費電力のULV版(Ultra Low Voltage、超低電圧版)をラインナップするなど、製品ポートフォリオはずいぶん増えることになった。C3に変わるスタンダードなCPUコアとして、VIA C7は今後もラインナップされ続けると予想される。特にネットブックの急速な盛り上がりはC7にとっても明らかに追い風になっており、これにより低価格ノート向けのシェアも若干増えた模様だ。
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