ネット通販で安全性を確保できる道もある
── 津田さんは検討会でどの点が足りないと感じましたか?
津田:薬はそもそもがセンシティブな商品で、リスクの高い薬品がネットで何でもポンポン買えてしまうのは、いろいろな問題があるでしょう。
今回の大きな争点の1つは、対面販売をどうとらえるか、それで安全性が本当に担保できるのかということです。
反対派の人は、「ネット通販は利便性は高いが、安全性は低い」という認識が前提にあります。個人的には2類、3類に限り、条件を付ければ、ネット通販でも十分に安全性の高い環境は作れると考えています。それは、購入数量を制限したり、本人確認などのプロセスを厳格化するといった方策をガイドラインや省令などで決めておくということです。薬の種類と対面販売の必要性については、今以上に議論すべきでしょう。
あとは、医薬品のネット通販が社会的にどれだけ必要とされているのかというところなんだと思います。三木谷さんは障害者の方、僻地に住む人、ネット通販の利用者で、困っている人がこんなにいるという資料を出していましたが、個人的にはその先が知りたい部分もあります。
2類の市販医薬品がネットで購入できることで、それが社会インフラ・セーフティーネットとしてどのくらい有効になるのか。そうしたことを試算した実証データを取った上で、どういう議論になるのか見たいと感じました。
消費者のヒアリングは十分だったのか?
── ネット側の立場に立ってみると、「対面販売をしている業者の利権を守るために強引に進めたのでは?」と偏った見方をしてしまいますが……。
津田:もし、コンビニで風邪薬が買えるようになったら、街の薬局は大ダメージを受けますよね。ネット通販も同じで、どうしても既存の薬剤師や置き薬ビジネスとバッティングする部分はある。
ただ、際限なしに認めてしまえば、市場が荒らされるだけでなく、安全性が犠牲になる可能性も出てくるわけですから、厚労省が慎重になる理由もあるんですよ。ただでさえ「薬害をなくせ!」という消費者からの意見も届いているわけですし。薬害をなくすという一点においては、今回のネット通販規制も安全性を高める面はあるでしょう。
結局、ネット側の勢力が既存の薬業界に対して、わかりやすいメリットや利益を提示したうえで、消費者も納得できる安全性対策を示すことができなければ、いつまでたってもこの問題は平行線なんでしょうね。
今回の経過措置は、ありていに言えば「問題になって紛糾し始めたので、とりあえず2年間結論先延ばしにします」という苦し紛れの部分も強いと思います。ただ、幸か不幸か、2年間猶予ができたとも考えられるわけですから、ここからちゃんとした議論をじっくりやるしかないんじゃないでしょうか。
薬を通販しているネット企業も「消費者や弱者の立場では……」とは言っていますが、結局、彼らも最終的には医薬品を売りたいわけで、利害関係者なんですよね。
そういう意味では、今回の検討会でも、純粋なエンドユーザーの意見がきちんとヒアリングできていない。現実に「ネット通販がなくなると困る」という人の意見を多様な方面から集めた上で、それが社会的にどれだけ必要とされているのか検討して、最適な解を見つける努力が必要でしょう。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。

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