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時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!” 第34回

これはひどい? 「薬のネット通販禁止」騒動の顛末

2009年05月15日 12時00分更新

文● 広田稔/ASCII.jp編集部 語り●津田大介(ジャーナリスト)

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「薬は対面販売」という原則に戻った

── そもそも、この「薬のネット通販禁止」は、どんな経緯で持ち上がった話なんですか?

津田:改正薬事法は元々、2006年6月に公布が始まっています。3年前に国会で可決していたのですが、一般の消費者にとって影響が大きいため、周知期間を十分に取ろうということで施行されるまで時間があった。それで今年の6月から、満を持して改正薬事法が施行されることになったわけです。

 「ネットで薬が売れなくなる」と騒ぎになったのは、今年の2月からです。2月5日、「薬事法の一部を改正する省令」のさらに一部を改正する省令が出ました。

 改正薬事法では、市販薬の持つリスクに応じて販売できる者を変えようということで、1類、2類、3類と分けています。この省令案によって、現行薬事法の原点である対面販売の原則が強化されることになり、結果としてネット通販にも影響を与えることになったのです。

署名

楽天は「楽天市場」にて、ネット署名を募集している。13日時点で、約140万8000件の署名があった

── 具体的に言うと、どういうことでしょうか?

津田:今まで、かぜ薬や鎮痛剤などの一般大衆薬は、ドラッグストアなどの実店舗だけでなく、手軽にネットでも購入できたんです。今回の省令でそれらの多くが対面販売でないと買えないようになったということです。

 その「改正の改正」案を知って、ネット事業者や長年伝統薬・漢方薬を郵送販売していた事業者が、今まで普通に販売していた医薬品が突然扱えなくなるのは困るし、困惑する消費者も大勢いるという意見を厚労省に対して出した。

 そして、消費者も一緒になって、今回の省令による変化は、以前と比べて周知期間も少ないし、従来の利用者に対してあまりに利便性が低くなりすぎないかと、反対意見を厚労省に送ったり、署名運動を展開しました。

 こうした流れに対して、混乱を避けるために検討会という場が設けられたという経緯です。


「寝耳に水」の事務局案だった

── 結論だけ見ると、そうした「ネットの声」がまったく反映されていない気がします。

津田:結局、事務局が自分たちの案を通しましたからね。意見が分かれていたとはいえ、検討会の4回目まではそれなりにいろいろな論点が出ていたんです。でも第5回で話がまとまらなそうなので、出てきた論点は置いておいて、事務局が「継続利用している人への販売と離島の人への販売を期限付きで認める」という新しい案を提案してきた。

三木谷氏

楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

 委員からしたらこれはまさに「寝耳に水」で、少なくともその新しい省令案を検討をした上でパブリックコメントにかけてほしいという要望が出たんです。特に楽天の三木谷さん(三木谷浩史社長)がこれに反発して、とにかくもう1回、省令案を検討する会議を開くよう強く希望して、第6回が設けられました。

 厚労省も時間のない中、急ごしらえで検討会を開いたため、もろもろの調整がつかずに大変だったということは分かります。しかし、今回の経過措置を設ける新省令案がある程度見えていたのなら、もっと早く委員に提案すべきだったのではないでしょうか。

 落としどころが見えない中、結果的に強引に進めることになってしまったことが今後の議論に禍根を残さなければいいと思うのですが……。

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