初音ミクがもたらしたもの
ボーカロイドは歌唱ソフトなので、実際には「歌ってみてもらった」動画なのだが、初音ミクのおかげで分かったのは、国内にDTMなどの流れで数多くの音楽的才能が眠っていたことだ。現在は既に、livetuneやsupercellのようにメジャーリリースさえあればチャート上位に食い込むアーティストも続発している状態。日常的な場面でボーカロイドの歌声を耳にすることも珍しくなくなった。
初音ミクのチャートアクションが目立つ背景には、相対的な音楽産業の落ち込みがある。CDの売り上げは減り続け、ダウンロード配信の伸びも止まった。結局は今までのコンテンツ産業を支えたシステムがダメ出しを食らっているのだと思う。音楽は利益を分配する道具として、このシステムに隷属する形で扱われてきた。ネットでは著作権が足かせになることも、そのひとつだ。
しかし動画サイトを見れば分かるように、音楽とそれにまつわるサクセスストーリーは、相変わらず必要とされている。そのストーリーの中心が「仮想の歌姫」であるところに、日本の文化状況の特殊性があらわれている。
少々気の早い話ではあるが、これまでコンテンツ産業の中心にあったテレビの時代が終わった後に、一体我々はどんな音楽を聴くことになるのだろう? それがこの連載の趣旨だ。
今ネット周辺で起きていることが音楽とどうつながり、音楽をどこへ向かわせるのか。音楽を作る「人」「環境」そして「楽器」はどう変わっていくのか。次回以降、その3つをそれぞれウォッチしつつ、ネット音楽史の「これまで」と「これから」を考えていく。
四本 淑三(よつもと としみ)
1963年大分県生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科講師。高校時代に音楽雑誌へ投稿を始めたのを契機に各種のコンテンツ制作や執筆作業に関わる。去年は動画サイトに上げたKORG DS-10の動画がきっかけで、KORG DS-10の公式イベント「KORG DS-10 EXPO 2008 in TOKYO」に参加。その模様はライブ盤として近日リリース予定。
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