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オフィシャル系動画配信陣営の反転攻勢となるか?

Yahoo!のGyaO買収は何を意味するのか?

2009年04月14日 06時39分更新

文● 松本 淳

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Yahoo!による買収で何が変わるのか?

 ここまでオフィシャル系動画サービスの収益化のポイントを3つに絞って見てきた。もちろんこの他にも様々な要素があるが、絶対に押さえなければならないポイントはこの3つだと考えている。

 さて、こう見てくると、今回のヤフーによるGyaOの買収はこれらのポイントを相当改善できる可能性が高いと筆者は考える。

 まず、「広告」。ヤフーでは2007年から広告ネットワークを強化し、また行動ターゲティング広告(インタレストマッチ)も本格的に稼働している。GyaOでは性・年齢・地域といった従来型のマーケティング手法が採られていた。YouTubeがコンテンツマッチで効果を上げたのと同様に、今秋登場するYahoo!に統合されたGyaOではこれらの広告機能は当然取り込んで来るだろう。

 「視聴者数」はポータルサイトとしての集客力を誘導できれば問題はない。ただし、ユーザーが魅力を感じる作品が編成されていなければ、いくら入り口の集客数が巨大でも、作品・広告を視聴するに至るユーザーは限定されてくる。

 そこで重要なのが「編成」である。GyaOがこれまで積極的に行ってきた作品調達力がここでは活かされるはずである。映画の買付でもよく指摘されることであるが、人気が出るか出ないかを判断する目利きの力がここでは問われる。ヤフーではコンテンツの選定に編集部門が大きな権限を持ち、トップページに配置するリンクに目を光らせている。同様の取り組みが動画コンテンツに対しても行われれば、リンクの魅力度が増し、思わずクリックしてしまう機会も増えてくるだろう。

 だが、この巨大動画配信サービスの登場でも、実はもう一つ超えなければならない壁がある。

TVとどう向き合うのか?

 「ネットはテレビを殺すのか?」などと喧伝されることもあるが、ラジオ・新聞がテレビに息の根を止められなかったように、ネットが全てを飲み込むことはない。特に先に挙げた「編成」の部分ではネット動画サービスはテレビと相互依存の関係になり得るし、北米では既にその動きの例を挙げることができる。

 昨年急成長したHuluがそれだ。HuluはFOX・NBC・パラマウントなど100社以上の権利者とパートナーシップを結び、昨年8月には1億ストリーミングを突破したと発表され、北米におけるオフィシャル系動画サービスの代表的存在となった。全ての配信映像が広告による収益化を達成したとも言われる。

 その人気の理由はとても単純である。Hulu.comにアクセスすれば、たいていのオフィシャル映像作品が、フルサイズ、広告付き無料で視聴することができる。ユーザーはわざわざ、NBCのサイトに行ったり、見つからなくて別のサイトに探しに行ったりしなくてよいのである。YouTubeやニコニコ動画のように、見たくないものに遭遇する可能性も極めて低い。

 現在、キー局各局が軒並みネット配信サービスを整備したと最初に述べたが、YouTubeのように動画が一つのサイトに集約され、検索し、関連動画を関心の赴くまま楽しむことに慣れたユーザーが、再び「○チャンネルで放送されていた、○○を見るために、○チャンネルが運営する配信サービスに訪問する」というスタイルに戻るとは、ちょっと考えにくくはないだろうか?

 Huluが支持されている状況からも、日本でもそういったオフィシャル系の映像が集約されたサービスが早晩求められると予想するのはさほど不自然なことではない。もちろん、テレビ局をはじめ権利者は自社のプラットフォームでコンテンツを直接ハンドリングした方が利益率は高くなるが、これまで見てきたように、相当な規模の経済がなければその損益分岐点を超えることは出来ず、たとえ軒並み赤字決算を行ったテレビ局が、タレント事務所との権利交渉を全て完了させ、自社のコンテンツを総動員したとしても、その先に成功があるかは未知数だと言える。

 そのように考えていくと、今回のヤフー+GyaOが出口を求めるテレビ映像の受け皿となるとは考えられないだろうか?

変わるメディアの役割分担

 東洋経済(1月31日特大号)「テレビ・新聞陥落!」におけるインタビューで、日本テレビ放送網取締役会議長の氏家齊一郎氏は次のように述べて、「ネットが放送を食う」という意見を「まったくナンセンス」と切り捨てている。

 同氏は、インターネットはテレビ放送のように1000万人単位の人が一斉に同じものを見る、という場合には適していない。サーバーを大量に使えば計算上はできるが、莫大な費用がかかる。アーカイブを見るのには向いているかもしれないが、大勢が集中するものは絶対だめだ……という主旨の発言をしている。

 筆者は実はこの意見には全く同感だ。定時ニュースやスポーツ中継などリアルタイム性が求められる映像には、電波の方が効率が良い。逆に言えば、氏家氏も指摘するように、タイムシフトして見ても良い、あるいはその方が都合がよいものは、ネットの方に優位性があると言えるだろう。この4月編成で、TBSをはじめとする各局が報道番組を軒並み重点編成したのは、制作費の削減だけでなく、これを見越した動きとも言える。

 テレビの登場と共に映画館のニュース上映は姿を消したが、映画そのものが無くなることはなかった。映画業界は合従連衡を繰り返しながら、現在の東宝・松竹・東映・角川といった体制を形作ることになった。いま私たちは、ネットでの映像視聴という新しいメディアの登場を目の当たりにしている。事業継続も危ぶまれる本家のヤフーを尻目に、巨大ポータルとしての地位を固めたヤフージャパンが、インターネットテレビの道半ばで陣営に加わることになったGyaOをどのようにメディア戦略に組み込んでいくのか。オフィシャル系動画サービスの反転攻勢となるのは間違いないが、ことはネットだけではなく、既存のテレビ局も巻き込んだうねりとなって、今年終盤から大きく動いてくるのではないかと筆者は予想している。

著者紹介:松本淳

松本し

松本氏写真

ネットベンチャー・出版社・広告代理店等を経て、現在、東京大学大学院情報学環修士課程在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、デジタル方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース支援活動を行なっている。米PMI認定PMP・デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。


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