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【WWDC 2006 Vol.2】新OS“Leopard”はデベロッパーに被害をもたらす? 米国会場から事前レポート(後編)

2006年08月07日 20時21分更新

文● ITジャーナリスト 林 信行

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米国時間8月7日の午前10時(日本時間8日午前2時)、米アップルコンピュータ社主催の開発者イベント“WWDC(Worldwide Developers Conference)”が開幕する。事前レポートの後編では、基調講演で明かされる次期Mac OS X“Leopard(レパード)”がもたらす影響について予測していこう。

Leopardディスク
会場の垂れ幕には、次期Mac OS X“Leopard”のインストールディスクも描かれていた

Leopardは2007年、米マイクロソフト社の新OS『Windows Vista』に先駆けて発売し、より優れた機能を提供するという意欲的なOSだ。アップルは、開発者達にもいち早くこの新OSの波に乗って欲しいと積極的に参加を呼びかけてきている。

2005年には6月に開催されていたWWDCだが、今年はLeopardの準備に合わせて8月の日程となった。ちょうど夏休みの時期と重なるため、飛行機代も宿泊費用も高く、参加をあきらめる中小の開発者も少なくないが、それでも前日に行なわれた日本人向け懇親会には120人近くもの開発者が集まっていた。

WWDC初参加の開発者も多いが、今回は特にプリンターやスキャナーといったイメージ関連の機器を手がける会社の人々が、普段よりも多くのスタッフを引き連れて参加しているような印象がある。

会場の受付 垂れ幕
WWDC会場の受付垂れ幕は受付上にある

LeopardのFinderにタブ機能!?

さて、それではウワサのLeopardはどんなOSになるのだろうか。アップルの事前の発表でいくつか明らかになっていることがある。まず1つは、Mac上でWindowsを起動する技術“BootCamp”ーーこれはLeopard以降に標準搭載となる。

これ以外にも新OSでは、『Mail』『Spotlight』『Safari』『QuickTime』といったほとんどの機能に対してメスがいれられることになるだろう。

特に『Firefox』の快進撃で追い上げられているSafariや、『Skype』に押され気味の『iChat』などは、それなりの機能強化が求められる。

Finderについても、間違いなく手が加えられるはずだ。結局のところユーザーにとて一番目につきやすいのは、OSの顔とも言えるFinderに加えた変更だからだ。

インターネットでは最近、そのLeopardのFinderとされる“流出映像”が人気動画サイト“YouTube”に掲載されて話題となっている。

真偽のほどは定かではないが、これが本物なら新たに作り直されたFinderにSafariのような“タブ”機能が用意され、1つのウィンドウで、複数のフォルダタブを切り替えて表示できるようになる模様だ。

つまり、Finderウィンドウはただ1つだけ開けばすべて用事が足りてしまうというわけで、これは確かに便利そうだ。


新機能 vs 開発者

もっともこのタブ機能は、一部のMacユーザーにとってそれほど真新しさはない。実はスティーブ・ガーマン(Steve Gehrman)氏が手がけるオンラインウェアのファイルブラウザー『Path Finder』は1年前からこの機能を先取りし、ユーザーから好評を博していたからだ。

Path Finder タブでフォルダーを開く
『Path Finder』のメイン画面タブとしてフォルダーを開ける

このように、アップル社が発表する新機能が、開発者からチャンスを奪う例は少なくない。もっとも、深刻な“被害”に合ったのはシェアウェア作者のダン・ウッド(Dan Wood)氏だろう。

彼は以前、『Watson(ワトソン)』というシェアウェアをつくって提供していた。近くの映画館で上映中の映画を調べたり、宅配便を追跡したり、インターネット上のさまざまなサービスを使い、ユーザーのためになる情報を表示する統合型アプリケーションだった。

米国ではこのソフトの評価は高く、WWDCで表彰されたこともある。しかし、表彰された翌年、アップル社は検索機能の『Sherlock』を改良しWatsonそっくりの機能を搭載した。ウッド氏によれば、アップルからの事前の連絡は一切なかったという。

SandVox
『SandVox』

これによってWatsonの新規利用者は激減した。ウッド氏は、最近になって誰でも簡単に凝ったホームページがつくれる『SandVox』というシェアウェアをつくり始めたが、こちらもソフトを発表した直後にアップルが『iWeb』を発表したため、直接競合することになってしまった。

「母艦(アップル)と直接競合するというのは、開発者にとってはいつも大きな問題だ」とウッド氏は語る一方、「だが、開発者の側で、アップルの機能と明確に差別化できるポイントを打ち出せれば、それほど深刻な問題にはいたらずに済む」ともコメントする。

さらにウッド氏は最近、日本語化対応も果たしたSandVoxについても、「iWebよりも柔軟で数歩先をいく機能を提供することでうまく差別化はできている」と付け足した。



pCalc
『pCalc』

シェアウェア計算機『pCalc』の作者、ジェームズ・トムソン(James Thomson)氏も同様の被害にあっている。Mac OS X 10.3“Panther”で大幅機能強化された計算機の機能が、なんとpCalcそっくりだったのだ。

トムソン氏は「アップルは市場シェア拡大を狙って、常に新しい機能の搭載に意欲を燃やしている。そうする上で、開発者の製品との競合が生じることは、ある程度、避けられないところがある。この競合に対してどう対処していくかは、開発者にとって大きな問題だが、アップルの機能より数歩先を維持して差別化できればそれでいいと思う」と語る。

そのほか、オンラインウェアの『Konfabulator』に対する、Mac OS X 10.4の『DashBoard』なども代表例として挙げられるだろう。



アップルは“干ばつのあとの大雨”

Leopardのウワサについて、Path Finderの作者、ガーマン氏に心境を聞いたところ、「LeopardのFinderはきっと大幅に変わることになると思う。もしかしたらタブ機能も搭載するかもしれないが、それについて焦りはない」と、格別に問題視はしていないようだ。

ガーマン氏はそれよりも「Cocoa機能の充実を望んでいる」という。「Cocoaは少ないプログラミングで、高度な機能を提供できることをウリにしているが、Path Finderのタブ機能は、かなりの部分を自力でプログラミングした」とのこと。

ガーマン氏は、Safariで使われているタブ機能がCocoaから利用できることを期待していたが、それもかなわなかった。「もし、Leopardで正式なタブ用のAPIが用意され、そのできがよければ、Path Finderもその機能を使って作り直すことも十分考えている。しかし、Cocoaが用意するプログラミングの部品の中には、Mac OS Xの大元となったネクスト(NeXT)時代そのままで、あまり進歩していないところも多い」と不満を表す。

ガーマン氏、ウッド氏、トムソン氏の3人はMac用シェアウェア開発を専業としている。それぞれに傷を負いながらも、アップルを責めずに、Mac OS Xの最新機能を使って、さらに先へ進もうとする3人の開発者の前向きな姿勢には心を打たれるものがあるだろう。

アップルは、まるで干ばつの後に突然、襲ってきた大雨のような存在だ。土砂崩れや川の氾濫を巻き起こし、一部の人に深刻な被害を与える一方で、明日の農作物のための貴重な糧も与えている。8月7日の大雨は、Mac業界という大地にどのような影響をもたらすだろうか? 日本時間で深夜の基調講演に注目だ。



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