マイクロソフト(株)が4月8日に開催したプレス向けワークショップ“Windows Server 2003 Reviewer's Workshop”で「一度Linuxをやっている人とちゃんと話をしてみたい」という趣旨の提案を受けた。“脱”Windowsで話題の電子政府市場をターゲットに、Red Hat LinuxとWindowsのガチンコ勝負となるはずだったが……。
Linuxに対する5つの疑問
- ●Linuxには管理ツールがなくTCOがかかるのでは?
- ●Linuxは機能が少なくROIが低いのでは?
- ●Linuxは自由に改変できるのにサポートできるのか?
- ●ディストリビューションが多く、ISVがLinuxをサポートするのは難しいのでは?
- ●電子政府はまだできていないのに本当にLinuxを採用するのか?
マイクロソフト(株)はこの6月、データセンター向け新OS「Windows Server 2003」を発売する。普段は日刊アスキー Linuxの編集を担当している筆者は、4月8日に行なわれた“Windows Server 2003 Reviewer's Workshop”を取材する機会に恵まれた。そこでは、マイクロソフトのデータセンター向け管理機能である“Dynamic System Initiative”(動的なリソース割り当て機能や運用管理機能、管理ツールなどを含めたソフトウェアのアーキテクチャ)といった、OS機能の説明が行なわれた。セミナー終了後、マイクロソフトのサーバ製品担当者と話す中で、Linuxに対する率直な問題点の指摘を聞くことができた。
マイクロソフトがLinuxの問題点として主張していたのは、次のようなポイントだ。 ・LinuxはWindowsと比べて管理ツールが少なく、TCO(Total Cost of Ownership、総所有コスト)が高くなる
- ・LinuxはWindowsと比べて管理ツールが少なく、TCO(Total Cost of Ownership、総所有コスト)が高くなる
- ・Linuxは必要十分な機能しか提供しないから、WindowsのほうがROI(Return On Invenstment、投資利益率)が高い
- ・Linuxは自由に改変できるのに、きちんとサポートできるのか
- ・ディストリビューション(配布パッケージ)が多いので、ISVはサポートする手間がかかる
- “電子政府、脱Windows”といった報道があるが、まだ実現していない電子政府で“脱”Windowsはあり得ず、感情的にLinuxを支持しているにすぎない
レッドハット(株)マーケティングマネージャの関川誠氏。 |
レッドハットは、4月14日に企業システム向け中規模サーバOS「Red Hat Enterprise Linux ES」と、企業向けワークステーションOS「Red Hat Enterprise Linux WS」をリリースし、すでに販売されている「Red Hat Enterprise Linux AS」とあわせ、企業システム向けのOSラインナップがちょうどそろったところだ。リリース間近の「Windows Server 2003」とのマーケティング戦略の違いについても興味がある。
テーマ設定などに時間をかけすぎたこともあり、マイクロソフトへの連絡は当初の予定から大幅に遅れてしまった。対談の相手とテーマについて事情を説明したところ、製品リリースが近いためスケジュールの都合がつかず、またオープンソースとクローズドソースという不毛な論争になるのではないかとの懸念から、今回は参加できないという説明があった。タイミングの問題や、趣旨がうまく伝わらなかったこともあり、対談に応じてもらうことができなかった。非常に残念だ。
とはいえ、先に挙げた問題については何らかの回答を出しておきたい。この記事では、レッドハット関川氏にご協力頂き、マイクロソフトが指摘する問題への解答を提示する。
e-Japanは“脱”Windows?
昨年11月16日、朝日新聞一面に「電子政府 脱ウィンドウズへ 基本ソフト 公開型導入の動き」と題する記事が掲載された。このような記事が出てくる背景にはまず、政府機関が使用するシステムの多くにWindowsが採用されてきた事実がある。有名なものでは、昨年8月5日より稼働を開始した“住民基本台帳ネットワーク”(住基ネット)がある。住基ネットは、いわゆる“国民総背番号制”への感情的な反論とセキュリティに対する不安感が絡んで、大きな議論を呼んだ。元総務大臣政務官の河野太郎氏は、総務省が“セキュアOS”についての研究会を設けた背景として、住基ネットにWindowsを採用したことへの批判があったと指摘している。
また、経済産業省は、国内のコンピュータ産業が国際競争力を欠くという危機感を持っており、Linuxの実用化研究を目的に、産業技術総合研究所で大規模にLinuxを導入するプロジェクトを開始するという。この文脈では、オープンソース市場が今後拡大するであろうという予測に基づき、産業政策的な位置づけでLinuxが登場する。
そのほか、ドイツ政府によるSuSE Linux導入や、米国国防総省でのLinux導入など、海外の政府機関でLinux採用が進んでいることもある。
Windowsは世論と経済政策、外圧により、政府機関が脱ぐべきものにされてしまったわけだ。