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トロン協会、メモリー保護機能を持つμITRON仕様OSを開発──フリーソフトとして配布へ

2002年04月15日 22時22分更新

文● 編集部 佐々木千之

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(社)トロン協会は15日、都内で記者発表会を開催し、メモリー保護機能を持ったμITRON仕様OSを開発したと発表した。開発したOS(カーネル)はオープンソースのフリーソフトウェアとして、ITRON仕様のウェブサイトなどで6月に公開するという。

トロン協会専務理事の中野隆生氏トロン協会専務理事の中野隆生氏

μITRON仕様は国産OSプロジェクトであるTRONプロジェクトにおける、組み込みシステム向けのリアルタイムOSの仕様。トロン協会がメーカーに対して行なった国内のアンケート調査によると、メーカーが最近開発した組み込みシステムのOSとして、ITRON仕様準拠のOS(※1)は40~50%を占めているという。μITRON仕様は、TRONプロジェクト開始以来の約20年間に4世代の仕様を経て、現行のリアルタイムOSとしては高い完成度を持つに至ったとしている。

※1 TRON OSは、プログラムやソースコードではなく、基本的にはその仕様のみが公開されており、この仕様に沿って開発されたOSはすべてTRON準拠OSということになる。なお、TRON準拠OSであることを明示する必要はない。

ITRON仕様の流れ
ITRON仕様の流れ

ただし、最近はコンシューマー向けの小型機器においても組み込みソフトウェアが大規模になる傾向があるうえ、製品サイクルが短くなる傾向もあり、開発期間短縮が求められるようになっている。このような環境においてはソフトの品質・信頼性を確保することが困難になってきたという。また、携帯電話に見られるように、プログラムを外部からダウンロード可能なシステムも登場し、そうしたプログラムからシステム自身を保護する必要性も生じてきたとしている。

IIMPプロジェクトのリーダーを務めた、豊橋技術科学大学の高田広章助教授IIMPプロジェクトのリーダーを務めた、豊橋技術科学大学の高田広章助教授

このような背景を踏まえ、トロン協会では2001年11月から保護機能(※2)をμITRON仕様OSに持たせるための“IIMP(Implementation of ITRON with Memory Protection)プロジェクト”を、情報処理振興事業協会(IPA)の採択テーマの1つとして進めてきた。IIMPプロジェクトのリーダーは豊橋技術科学大学助教授の高田広章氏で、技術・ソフト開発は(株)デンソークリエイト、富士通デバイス(株)、(株)エルミックシステム、(株)エーアイコーポレーション、豊橋技術科学大学が分担した。なお、成果物の権利はTRON協会とIPAに帰属する。

※2 ここでいう保護機能は、OS上で動作するソフトウェアに問題があっても、動作中のほかのソフトやOSに及ばないようにする機能を指す。

IIMPプロジェクトで開発したのは、μITRON 4.0仕様のスタンダードプロファイルにメモリー領域とカーネルオブジェクト(タスク、セマフォなど)に対するアクセス保護機能を追加したもので、μITRON 4.0/PX(Protection eXtension)仕様と呼んでいる。

保護機能の搭載によって、ソフトウェアのテスト期間短縮や、バグによってほかのデータが破壊されるといったことが防げるとしている。保護機能の実装にあたっては、保護機能実現に大きなオーバーヘッドが必要となることのないように、物理空間におけるメモリー保護においてアドレス変換を行なわないことや、メモリー配置の最適化を静的に行なうことなどの工夫をし、成果を得たという。

保護機能の利点
保護機能の利点

またIIMPプロジェクトでは、このμITRON 4.0/PX仕様に基づく“IIMPカーネル”を開発した。IIMPカーネルは、豊橋技術科学大学組み込みリアルタイムシステム研究室を中心とした“TOPPERSプロジェクト”(※3)の『TOPPERS/JSPカーネル』をベースにしており、英アーム社の『ARM940T』、(株)日立製作所の『SH3』、米インテル社の『Pentium』の3つのプロセッサーをサポートしているという。

μITRON 4.0/PX仕様による保護機能
μITRON 4.0/PX仕様による保護機能
※3 TOPPERSプロジェクト(Toyohashi OPen Platform fo Embedded and Real-time Systems):組み込みシステム構築の基盤となる各種のソフトウェアを開発し、フリーソフトウェアとして公開することで、組み込みシステム技術と業界の発展に寄与するという目的のプロジェクト。豊橋技術科学大学組み込みリアルタイムシステム研究室を中心として、プロジェクトに賛同する組織・個人によって推進されている。

μITRON 4.0/PX仕様の概要
μITRON 4.0/PX仕様の概要

IIMPプロジェクトの開発作業はほぼ完了し、6月にはμITRON 4.0/PX仕様(日本語)とともに、IIMPカーネル、検証プログラムなどの開発成果物をフリーソフトウェアとして公開するとしている。仕様公開と同時にリファレンス実装を提供するのは、トロンプロジェクトとしても新しい試みだという。「μITRON 4.0/PX仕様OS全体で、3年後に組み込みシステム用リアルタイムOSの中で5~10%のシェアを取りたい」(高田助教授)としている。また、仕様の英語版も日本語版公開後に作成する予定としている。

IIMPカーネルの特徴
IIMPカーネルの特徴

μITRON 4.0/PX仕様の発表会では、高田氏がTOPPERSプロジェクトによる『TOPPERS/JSPカーネル Release1.3』の配布開始と、TOPPERSプロジェクトへ4社が参加することもあわせて発表した。

TOPPERSプロジェクトの目的
TOPPERSプロジェクトの目的

TOPPERS/JSPカーネルは、2000年11月に最初のリリースを公開したもので、μITRON 4.0仕様のスタンダードプロファイル規定に準拠したリアルタイムOS。読みやすく改造しやすいソースコード、ポーティングが容易な構造、Linux/Windows上でのシミュレーション環境を用意、高い実行性能と小さいメモリー使用量、フリーソフトウェアのみで開発環境まで構築可能、といった特徴を持っているという。従来対応していたプロセッサーは、米モトローラ社の『M68040』、日立製作所の『SH1』『SH3/4』『H8』、英アームの『ARM7TDM』、日本電気(株)の『V850』だった。本日付で発表、配布を開始したRelease1.3は、三菱電機(株)の『M32R』、米ザイリンクス社の『MicroBlaze』、米テキサス・インスツルメンツ社の『TMS320C54x』(DSP)、日立製作所の『H8S』、米インテルの『Pentium』の5つを追加した。

また新たなTOPPERSプロジェクトの参加企業として、(株)アドバンスドデータコントロールズ、(株)イーエルティ、(株)エーアイコーポレーション、(株)ソフィアシステムズが加わった。これによって、プロジェクトメンバーは、豊橋技術科学大学組み込みリアルタイムシステム研究室、宮城県産業技術総合センター、苫小牧工業高等専門学校情報工学科、(資)もなみソフトウェアを含め、8組織になったとしている。

TOPPERSプロジェクトのソフトウェアの利用条件
TOPPERSプロジェクトのソフトウェアの利用条件

なお、TOPPERSプロジェクトはライセンスに特徴があり、TOPPERS/JSPカーネルの利用(商用含む)にあたっては、プロジェクトに対して報告するだけで、プログラム自体にはTOPPERS/JSPカーネルの使用を示す必要はないという“レポートウェア”となっている。これは、GNUライセンス(GPL)などでは組み込みシステムで利用しづらいが、一方で完全に自由にしてしまうと大学の研究成果としてのアピールができなくなり、研究が続けられなくなるというところから考えられたものとしている。

高田助教授によると、ITRONでは開発環境やツール類、ソフト部品の不足や、ソフトの移植性の悪さなどが問題点として指摘されてきた。これに対し、ITRONを10社以上が開発しているという過剰な重複投資が問題なのではないかと考えた結果、ITRON仕様OSをフリーソフトウェアとして供給することで、各社の開発投資をより先端的なソフト部品や開発環境の開発に向けさせるためにTOPPERSプロジェクトを始めたのだという。フリーソフトウェアが存在すれば、それを利用する企業が増えて、TRON実装の種類が減り、ソフトの移植性が向上し、翻ってITRON仕様OSの問題の多くを解決できるという。

また、TOPPERSプロジェクト参加企業各社がプロジェクトへの取り組みについて説明したが、その1社であるもなみソフトウェアの邑中雅樹氏は同社の今後の取り組みとして、独立法人産業総合研究所と連携し、国産の分散オブジェクト技術“HORB”との組み合わせによって、Linuxと比較した際のITRONの弱点と言われるネットワークの接続性の悪さをカバーし、分散ネットワーク機能を持たせる計画であることを明らかにしている。

記事掲載当初、HORBとITRON仕様OSを組み合わせて分散ネットワーク機能を持たせる計画について、高田助教授の発言であると受け取れる表記となっておりました。正しくはもなみソフトウェアの邑中氏の発言であり、もなみソフトウェアの計画です。お詫びして訂正いたします。

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