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TOPPERSプロジェクト、マルチプロセッサー対応のリアルタイムOS『TOPPERS/FDMPカーネル』を発表――オープンソースソフトウェアとして配布の予定

2005年04月18日 19時13分更新

文● 編集部 小西利明

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TOPPERSプロジェクトの活動について説明する、TOPPERSプロジェクト会長の高田広章教授
TOPPERSプロジェクトの活動について説明する、TOPPERSプロジェクト会長の高田広章教授

NPO法人“TOPPERSプロジェクト”は18日、東京都内にて報道関係者向けの説明会を開催し、マルチプロセッサー対応のリアルタイムOS『TOPPERS/FDMPカーネル』の開発成功と、オープンソースソフトウェアとしての配布を発表した。TOPPERSプロジェクトはITRON仕様をベースとした組み込み機器向けの各種ソフトウェアの開発と公開、教育を通じたシステム技術者の育成などを目的とした特定非営利活動法人(NPO法人)。名古屋大学 大学院情報科学研究科の高田広章教授とその研究室を中心に、団体正会員は77、合計会員数155を数え、各種ワーキンググループによる活動を行なっている。

今回発表されたTOPPERS/FDMPカーネルは、4年半前にTOPPERSプロジェクトが公開したOS『TOPPERS/JSPカーネル』をベースに、機能分散マルチプロセッサー環境に対応するリアルタイムOSとして開発されたもの。組み込み機器用OS『μITRON 4.0』のスタンダードプロファイルに準拠しており、機能の異なる複数のプロセッサーを搭載するシステム上で、プロセッサー間の同期や通信をOS側でサポートするリアルタイムOSとして開発されている。想定されるシステムとしては携帯電話のように、アプリケーションプロセッサーとベースバンドプロセッサーを別々に備えている、現在および近い将来のデジタル機器をターゲットとしている。

組み込み機器の世界では、従来からあるITRON系に加えて、Linuxを採用する機器も特にいわゆるデジタル家電の分野で急成長している。しかしLinuxは元々パソコン用に開発されたもので、パソコンとは大きく異なるアーキテクチャーの環境上では、必ずしも適切なOSとは言えない。特に機能分散マルチプロセッサーの分野は、パソコンやサーバーで使われる対象型マルチプロセッサーとは異なり、目標とする機器の仕様に合わせて、機能や仕様の異なるプロセッサーを複数個組み合わせる場合がある。そうしたシステムをサポートするためには、従来では異なるOSを1つのシステムに組み込んで、アプリケーション間でプロセッサー同士の同期やデータ通信を行なうといった対応を行なっていた。しかしこれは開発に手間がかかり、デバッグやテストも難しい。またリアルタイム性に悪影響を及ぼすことも多く、OS側で機能分散マルチプロセッサーをサポートするものが望まれていたと高田教授は説明する。

TOPPERS/FDMPがターゲットとする機能分散マルチプロセッサーの例(東芝のMeP)。MPEG-2を処理するために、特定処理に特化したプロセッサーコアを複数、1チップの中に搭載している(画像は説明会資料より引用。以下同)
TOPPERS/FDMPがターゲットとする機能分散マルチプロセッサーの例(東芝のMeP)。MPEG-2を処理するために、特定処理に特化したプロセッサーコアを複数、1チップの中に搭載している(画像は説明会資料より引用。以下同)

TOPPERS/FDMPカーネルはμITRON 4.0の仕様を元に、機能分散マルチプロセッサー向けに機能を拡張して開発された。カーネル本体は高田教授の研究室に所属する本田晋也氏が、TOPPERS/JSPカーネルをベースに開発した。μITRON仕様のAPIで各オブジェクトにアクセスできるほか、μITRONベースのOSで開発されたソフトウェア資産を活用も可能である。タスクなどのカーネルオブジェクトはシステム内のいずれかのプロセッサーに属し、属するプロセッサーで実行される。プロセッサー間の通信や同期はタスクとは独立して行なわれ、タスクを阻害しない。また割り込みやタスクスケジューリング処理は各プロセッサーごとに行ない、あるプロセッサーが割り込み処理中で他の割り込み発生を禁じている状態でも、他のプロセッサーは割り込み処理を行なえるように設計されているという。コンセプトとしては、マルチプロセッサー向けとはいえシングルプロセッサー環境と同じような環境を構築できるように、マルチプロセッサー独自の機能は極力設けないようにしている。またプロセッサー数の増加や異なるアーキテクチャーのプロセッサーへの移植も容易になるよう設計されているとのことだ。

TOPPERS/FDMPのオブジェクト管理の概念図
TOPPERS/FDMPのオブジェクト管理の概念図

現時点で対応するプロセッサーは、(株)東芝の『MeP(Media embedded Processor)』、日本アルテラ(株)の『Nios IIプロセッサー』、ザイリンクス(株)の『MicroBlaze』など。それ以外のプロセッサーについては、ニーズの高いものから対応を進める。リリースのスケジュールについては、まず5月27日に開催される“TOPPERSカンファレンス2005”にてプロジェクト会員向けにβ版をリリースし、βテスト後に遅くとも年内には一般向けに配布するとのことだ。高田教授は一般向けリリースに時間を要する点について、「例のないOSだけに、機能・性能が十分かを評価するため」とした。

TOPPERS/FDMPが対応するプロセッサー。写真の基板はそのひとつ『MicroBlaze』の評価用ボード
TOPPERS/FDMPが対応するプロセッサー。写真の基板はそのひとつ『MicroBlaze』の評価用ボード

また説明会ではTOPPERSプロジェクト製OSの、産業界での利用事例についても報告された。最新の事例としては、ローランド(株)のデジタルピアノ『KR-107』や『RG-7』が、TOPPERS/JSPをベースにμITRON 4.0をフルサポートできるように拡張された『TOPPERS/FI4カーネル』を採用している。そのほかにも、USBオーディオ機器や広告用ディスプレー、NC装置、RFIDリーダー/ライターなどの事例が紹介された。このほかにも公開はされないが採用事例は多いとのことだ。

TOPPERSプロジェクトのOSのひとつ『TOPPERS/FI4カーネル』を利用した製品例。ローランドのデジタルピアノ『KR-107』と『RG-7』
TOPPERSプロジェクトのOSのひとつ『TOPPERS/FI4カーネル』を利用した製品例。ローランドのデジタルピアノ『KR-107』と『RG-7』

なおTOPPERSプロジェクトのOSはオープンソースソフトウェアであるが、ライセンス規則はLinuxが採用している“GNU GPL”などよりも(特に企業にとって)自由な利用や拡張を重視したライセンスとなっているという。たとえば企業がTOPPERSプロジェクトのOSに自社で拡張を加えたとしても、自社のノウハウが詰まったプログラムコードまで公開する義務はなく、商用利用も自由である。しかしTOPPERSプロジェクト側は開発資金獲得のアピールのためにも、採用事例の状況を把握したい。そこで“このプロジェクトで利用しましたよ”という報告を行なうことをライセンスで義務づけている。あくまで報告のみであり、何に利用したとか、どこをどう改変したかを公開する義務はない。ビジネスの活性化が目的であるため、企業側にとって利用しやすいライセンスであることを重視している。

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