【DIGITAL PERSON24 Vol.2】オリジナル検索サイトからeビジネスのグループ代表へ――“イ-・エ-ジェンシ-・グループ”代表取締役、甲斐真樹氏
2000年05月02日 00時00分更新
イ-・エ-ジェンシ-・グループ代表取締役、甲斐真樹(かいまさき)氏――直感で飛び込んだネット業界の中で、本物のビジネスの在り方を目指す
'95年9月という、日本ではまだインターネットという言葉さえもあまり浸透していなかった時代に、大手検索サイトに先駆けて、日本でいち早く独自の検索サービス“ドラゴンサーチエンジン”をスタートさせた甲斐真樹氏。現在、(株)イ-・エ-ジェンシ-をはじめ、計6つの会社を擁するイ-・エ-ジェンシ-・グループの代表取締役として活躍している氏に、これまでのビジネスの展開について語ってもらった。甲斐氏がネットの世界に飛び込んだのは'95年のこと。前年には同志社大学経済学部を卒業して就職が決まっていたにもかかわらずそれを辞退。就職浪人とも言える生活をしていた時に発見したのが、米国で注目を集めていたネットビジネスの存在だった。'95年9月には、パソコン好きの弟の力を借りて検索サイト“ドラゴンサーチエンジン”をスタート。あっという間にその存在はネットで知られるようになった。翌年の'96年5月には、親から資金を借りて、“ジャパンサーチエンジン”(以下JSE)を創立する。
その後、「このままでは間もなくやってくる大手検索サイトには勝てない」と思った甲斐氏は、次々と新規ビジネスのアイデアを打ち出し、自身の基盤を固めていった。そして、'98年の末にはメールマガジンサイトのフィールドゲート社との合併を皮切りに、新会社を次々と設立し、今年はついに6社をまとめたイ-・エ-ジェンシ-・グループを創立するまでに至っている。
イ-・エ-ジェンシ-・グループの代表取締役、甲斐真樹氏 |
検索サイトだけでは大手に勝てない。生き残りをかけて事業メニューを充実
--会社創立はどのようにスタートしたのですか?「'96年5月に親から資金を借りてJSEを創立しました。社員はメーンエンジニアを担当している弟を含む5名とバイトが数名で、みんな学生でした。僕自身、会社に就職した経験がないので、ある意味では学生ベンチャーだったかもしれません。当時はそういう言葉もあまり耳慣れないものでしたが、アイデアとやる気は満々でしたから協力してくれる人は多かったですよ。京都にあるインキュベーション施設(京都リサーチパーク*=以下KRP)にオフィスを構えられたのもラッキーでした。周囲には“まぐまぐ”さんやTシャツの“イージー”さんのように、ジャンルは違うけれどネットビジネスでは第一人者の会社があって、いろいろと勉強させてもらいました」
デジタルインキュベーターが多数入居しているKRPのスタジオ棟。そのほかにも周囲にはいくつかのインキュベーションビルが建ち並ぶ |
ドラゴンサーチエンジンとしてビジネスをスタートした京都リサーチパークのスタジオ棟の1室。最初からネットビジネスベンチャーの入居を前提とした建物で、大容量の回線が引かれていた。1階にはTシャツのECサイトで有名な京都イージーが入居している。現在はドラゴンフィールドのオフィスとして使われている
*京都リサーチパーク(KRP):大阪ガスの工場跡地を利用し、'87年に民間のインキュベーターとして設立。 現在、入居企業数約120社、昼間人口2000人、会議施設の利用者数年間10万人。創造的な研究開発環境、各種サービスの提供を通じ、新分野を切り開く企業の支援を目的に、地域の産業発展と活性化を担う。“大学のまち京都”、“ベンチャーの都京都”という風土から、産学交流、産学交流の発展も狙う。http://www.krp.co.jp/
「実は、会社を始めた時から検索サイトというビジネスだけでは、大手にすぐに負けてしまうというのは分かっていたんです。そこで、次はサイトを作る側をお手伝いするサービスを目指しました。でも、その時に誰に対してどんなサービスを提供していくのかというのは、商売の経験がないとなかなか実感できないものなんですよね。メンバーもどちらかといえば技術寄りでしたから、どうすればいいか分からない。その時にKRPという場所で刺激を受けられたのはよかったですね」
--その後の具体的なビジネスの展開について教えてください
「まず、検索サイトと並行して、さまざまなサイトにアドレスを登録する代行登録サービスをスタートしました。このサービスは今も生き残っていて、“さぶみっと!-JAPAN-”という名前で始めたものをe-365(株)のメーンメニューとして引き継いでいます。そして、“サイトを作る側をお手伝いするサービス”を発展させて、企業向けメールとマーケティングサービスの提供や、インターネットに関わる新規事業のコーディネートといった、ウェブマスター向けの総合プロモーションサービスの提案へと事業メニューを充実させていきました」
「今のようなグループ化を進めるきっかけになったのは、'98年の末に門田威一郎氏が運営していたメールマガジンサイトのフィールドゲートとJSEを合併してドラゴンフィールド(株)を設立したこと。その後、オンライン広告を行なう24/7メディア・ジャパン(株)、ASPのはしりともいえる無料オンラインショップ構築サービスを提供する(有)ショプラス、各種システム開発などを手掛ける(有)フューチャー・スピリッツを順番に設立していきました」
サーバーでぎっしりのドラゴンフィールドのオフィス。このオフィスから甲斐氏のビジネスはスタートした |
やはり拠点は京都。東京でなくてもビジネスができることを証明したい
--グループの中での甲斐氏の位置づけや役割は?「6社に対して僕と門田が、代表取締役ないしは取締役の肩書きを持っているんですが、東京での展開や営業は門田が受け持ち、事業メニューや本質であるサービスの中身、社員教育については僕が担当するというように、それぞれ役割を分担してきました。今後の方向性としては、グループ会社としてのメニューを拡げていくよりも、現在の事業の中で育ってきたものを、少しずつ分社化していくという形を考えています。たとえば、僕がやっていたドラゴンフィールドの代表取締役という肩書きを、今年の頭に社員の木村祥一郎氏へ譲ったように、人を育てつつ、グループ全体の力を高めていきたいと考えています」
「そういう流れもあって、僕自身が前に出て何かを進めなくてはいけないという時には、東京に出ていく時もありますが、基本拠点はやっぱり京都。ここにはとても優秀な人材が揃っているし、長い間住んできた場所だから人脈もあります。それに、東京でなくてもビジネスができることを証明したいっていうのもありますから(笑)」
--サービスを提供するという中でこだわっているものはありますか?
「e-365のホームページに会社の電話番号を記載しているのがそうですね。サービスを利用する時に使い方が分からない時って、電子メールよりも電話をかけてすぐにでも対応してほしいものじゃないですか。電話番号を付けるのはリスクが大きいし、設備も必要だし、ネットの時代はそういう電話から離れられるのがいいところだと、周りからも反対されたんですが、自分がサービスを使う立場になって、やはり電話番号は必要だと決断しました」
「結果的に、クレームにすぐ対処できることでお客さまへの信頼が高まりました。クレームそのものがメニュー改善のアドバイスにもなっていますね。しかも、リピーターが占める割合がけっこう大きいんですよ。それにお客さまの声が直接聞けるので、社内のサービスに対する意識も高められました。とどのつまり、ネットビジネスでもサービスである限り、人と人との関係をどこまで大切にできるかが重要だと思うんです。自分たちの仕事に自信を持って、相手に誠意を尽くしていかないと。ネットだからこそ会社の本質が見えてしまうんですよね」
甲斐氏に決まった席はなく、作業をする時には主に愛用のiMacが置いてあるデスクを使う。「社員はみんなWindowsユーザーで、僕だけがMacユーザーなんですよ」 |
社員40人で考えられる筋肉質な会社を目指す
--現在、ビジネスの中で一番力を入れているものはなんですか?「会社としての組織づくりですね。昨年からの事業拡大でイー・エージェンシーはこの1年で社員数が40数名に増えました。去年に比べるとほぼ3倍です。しかも平均年齢は24歳と自分でもびっくりするぐらい若い(苦笑)。でも、若いから何かルールを作らないといけないというのではなくて、ただ単に、会社の規模としてルールが必要な時期に入ったと感じたんです。自分の考え方を押し付けても社員はついてきてくれない。そこで、社内から自然とルールが生まれるようにしていきました」
「そのひとつとして、半年前から残業なしの定時就業体制を実現させました。よく驚かれるんですが、強制ではなく、自分に区切りを付けるという意味で就業時間の設定が大切だと思って始めたら、意外にちゃんと定着してしまった。会社に対して一番シビアなのは社員ですから、彼らに受け入れられる会社なら、世間でも通用するのではないかとも思っています」
イー・エージェンシー全体で社員は40数名で平均年齢は24歳と驚くほど若い |
--そういう意味では財産はやはり社員だということですね
「サービスというビジネスでは、スタッフこそが会社の顔であり、財産なんです。将来的には、社員40人で考えられる筋肉質な会社を目指しています。そうした自覚を持ったスタッフが揃っているのが我が社の自信につながっています。社員もほとんどが社員からの紹介なんですよ。だからこそ質の高い人材がたくさん集まったし、辞める人もほとんどいない。社員が紹介したい会社かどうかが、僕自身にとってもひとつのバロメーターになっていますね」
--ネットビジネスに対してひと言お願いします
「今のインターネットベンチャーは、表面の華やかさばかりが話題になっていて、長続きしているものが少ないし、同じことを続けているところよりも、転換の早さばかりが取り上げられているように思います。それはそれで、ネットビジネスの特徴だとも言えるんですが、やはりビジネスというのは、長く続いていくのが当たり前だと思います」
「僕自身は先の先を見ているので、あまりがむしゃらに見えないとよく言われるんですが、逆に会社経営に対する欲は人一倍あるんですよ。明日よりももっともっと先を続けられるような会社を作っていきたい。本物の企業経営者になりたいし、これまでにはない、ネット改革に値するような何かをしていきますよ」