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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第9回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

オープンリールを「楽器」として再発見──和田永氏

2009年03月15日 13時00分更新

文● 松村太郎

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2009年2月4日から15日の期間、東京・六本木の新国立美術館で開催された「学生CGコンテスト」受賞作品展の会場

道具の可能性の探究

和田氏 オープンリールは、技術が未熟で録音と再生のヘッドがそれぞれ個別に用意されています。でも、再生ヘッドと録音ヘッドが隣り合わせに並んでいるおかげで、この作品では録音したその空間の音をワンテンポ遅れて再生できるんです。また、テープの上には時間軸に沿って音が記録されていますよね、そういった必然的な仕組みも面白い。


 製品に触れ、仕組みや技術的な制約を知ることは、それを道具として活用する可能性を探る活動でもある。和田氏は情報の変換と再生に続いて、ひとつの時間軸上に展開される情報の同期性へと興味を膨らませている。その志向がOpen Reel Ensembleを会場内に点在させたり、遠く離れた場所に設置したりして、各空間の音をサンプリングしながらネットワークを通じてパフォーマンスをしてみたい─というアイデアに結びついているのだろう。


恵まれた制作環境

和田氏 昔はすごくいいアイデアがあっても、技術が足りないために実現できない、ということがあったと思うんです。

 でも、いまは学生の僕でもiPhoneみたいな製品が買えて、勉強さえすればプログラミングだって使えるようになる。アイデア次第で道具をいかようにも活用できる、恵まれた時代なんですよね。それがひとつの面白さだと思っています。


 古い道具の本質やその道具が扱う情報の本質を知り、最新の技術と融合させる和田氏の作品やその世界観には温故知新を感じる。また、サウンドに限定して言えば、Open Reel Ensembleの奏でるサウンドは、オープンリールのような古い道具を使わなくても実現可能だろう。しかし、あえてこのようなスタイルを選んでいる理由はどこにあるのか。


和田氏 アートの面白さは、一般的な用途や利便性とは違った視点で道具の可能性を発見できる点。利便性とは異なるベクトル、例えば純粋に音楽を楽しむという方向性でもいい。そういった提案をとおして、道具と人間の関わり方を新しい局面に持っていけたらいいな、と思っています。


 プログラミングやデザインに誰もが取り組める環境にあって、手軽に挑戦できる半面、そのシステムを把握していないが故の不便を強いられる局面が多々ある。道具の組成を知ったうえでそれらを扱うことができるようになれば──そんなことをOpen Reel Ensembleが奏でる音楽を聴きながら考えさせられた。


筆者紹介──松村太郎


ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET


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