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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第56回

大失業時代に雇用をどう守るか

2009年02月25日 13時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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派遣労働規制の凍結を

 このまま放置すると、年度末にかけて「大失業」が発生するおそれがある。昨年の秋以降、派遣切りの急増によって住居を失う労働者が大量に出るなど、深刻な社会問題が起こったが、今度はそれを上回るパニックが起こるかもしれない。

 これに対して、一部の野党が主張するように、製造業の派遣禁止などの規制強化で対応するのは、派遣切りを増やして逆効果になる。一部で議論されている「ワークシェアリング」にも大した意味がない。それより明確に賃金の引き下げを労使で協議したほうがよい。特に社内失業している中高年社員の賃金を引き下げ、若年労働者の雇用を守るべきだ。

 私は臨時措置として、派遣労働の規制を凍結することを提言したい。特に3月末に契約の切れる派遣労働者の契約を、一時的に延長できるようにする臨時措置を政令で定めてはどうだろうか。それによって少なくとも、必要な派遣労働者を規制を守るために切ることは避けられる。また昨年決まった「日雇い派遣」の禁止なども延期し、完全失業の防波堤となっている派遣労働を守るべきだ。

 もちろんこれは臨時措置で、長期的には直接雇用を増やす制度改革が必要だ。そのために必要なのは、正社員と非正規社員の雇用コストが倍以上違う現状を是正することだ。経営者が大卒の社員を採用するとき、今のように解雇が事実上不可能だと、生涯賃金で2億~3億円の投資を強いられる。経営者がリスクヘッジのために、解雇しやすい非正規労働者を雇うのは当然であり、役所が「直接雇用しろ」などと命令したって始まらない。

 必要なのは、経営者が正社員を雇用するインセンティブを与えることだ。そのためには、業績が悪化したら正社員を解雇できるように規制を緩和する必要がある。特に司法による解雇制限が強いので、労働基準法を改正して解雇を制限する理由を明記し、解雇自由の原則を徹底すべきだ。これによって中高年の正社員が解雇しやすくなるが、労働需要が増えるので全体としての雇用は確実に増える。特に派遣労働者の直接雇用や新卒採用は増えるので、若年失業率が改善されるだろう。

 長期的には、雇用規制を撤廃する代わりに失業者の職業訓練を強化し、新しい職場で働きやすくする積極的労働政策が重要だ。労働者を企業に一生閉じ込めることによって忠誠心を育て生産性を上げる「日本的雇用」はもう限界であり、労働移動を阻害して日本経済全体の生産性を低下させている。これから来る「大失業時代」は、それを抜本的に考え直すチャンスである。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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