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世界企業パナソニック 90年目の決断 第17回

日本企業は世界でどう戦うべきか?

パナソニックが中期経営計画に環境経営を盛り込む理由

2009年01月28日 12時00分更新

文● 大河原克行

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巨大PDP工場の稼働開始でもCO2の総量は減らす

 この計画期間中、パナソニックは、プラズマパネルを生産する兵庫県尼崎市のPDP国内第5工場を2009年11月から稼働させる。大型工場の稼働によって、CO2の排出量は大幅に増加する。30万トンの削減計画のなかには、この工場の稼働が盛り込まれているのだ。一方で、兵庫県姫路市では2009年度中に液晶パネル生産のIPSアルファ姫路工場の稼働を予定しているが、同工場のCO2排出量は、この計画のなかには盛り込まれていない。

 いずれにしろ、大型工場の稼働は、総量でのCO2削減目標達成において、マイナス要素に働くのは確実だ。

30万トンのCO2削減

2007~2009年度の3年間で30万トンのCO2削減に取り組むと発表している

 一方で、2007年度、2008年度のCO2削減実績が少ないことは気になる要素だ。2007年度に同社が総量で削減したCO2はわずか1万トン。2008年度の見込みも11万トンの削減に留まる。2年で計画の3分の1程度しか達成していないのだ。そして、尼崎の大型工場が立ち上がる2009年度に、残りの約3分の2に当たるCO2を削減しなくてはならない計算なのだ。

 だが、中村グループマネージャーは、この達成に自信を見せる。「2008年度上期の計画達成率は99.5%。ほぼ予定通りに進捗している。しかも、2008年度下期からはこれまでの投資や仕掛けが、目に見える形で貢献してくる。仕込みが成果となるまでには時間がかかるが、いよいよ2009年度に向けて削減量が加速する。経済環境の悪化で生産量を縮小することも影響するが、GP3計画で打ち出した30万トンのCO2削減達成は、確実に視野に入っている」と反論する。

 中期経営計画に環境を盛り込むという大坪社長の発表は、ドメイン側は事前にはまったく想定していなかったものだ。そのため、環境に対する当初の取り組みは何をしていいのかわからず、「節約」という観点からの取り組みに終始していた。だが、その後の意識改革によって、投資をしながら環境対応を図る手法が取り入れられ、推進力は急速に向上した。その成果がこれから表面化するというわけだ。

 中村グループマネージャーは、明確な形で口にはしなかったが、あわよくば、姫路新工場の稼働分まで含めて、総量30万トンのCO2削減の目標を達成することを目論んでいるようだ。それだけ、この目標達成には自信を持っている。

 そして、特筆できる点は、パナソニックは、環境活動に関しては、単なる号令に留まらず、具体的なアクションにつなげることにこだわっていることである。

 「成長戦略と環境は車の両輪。環境への姿勢を示すだけではなく、実行力やその効果も測定するところに、当社が取り組む環境戦略の意味がある」と、中村グループマネージャーは語る。

 2008年度から、売上高、営業利益、在庫、CCMなどの基幹の経営指標と同様に、全世界の製造拠点を対象にCO2排出量をはじめ、電力、都市ガス、重油などのエネルギー使用量や水使用量に至る33項目を「省エネ33アイテム」として、環境パフォーマンスデータを月次ベースで収集し、その分析結果を逐次、評価し、フィードバックする。

 また、コトマエ管理と呼ばれる3カ月先の状況を予測した進捗管理を2008年4月から導入。3カ月ごとに開かれる決算検討会のなかで、課題と対策を議論し、ドメインごとの進捗を管理。さらに、ABC管理により、遅れているテーマに関しては重点的に改善に取り組んでいくほか、メーターやゲージという具体的な指標によるメタゲジ進捗管理を行い、エネルギー消費量の“見える化”を推進。これにより、隠れたエネルギーのロスを明確化し、削減活動につなげる。また、約1万シートを収集した基礎データによるエネルギー使用分析「エネマップ分析」を活用したCO2削減管理を進めているのだ。

 「メタゲジは、ファジーな考え方でCO2削減に取り組むのでなく、どこにロスがあるかを知り、具体的な改善策を進めるためのもの。2008度中には、80%以上のエネルギー使用に関して、メタゲジの導入を図る」という。

 事業場のCO2削減取り組み事例としては、高効率インバータエアコンと個別運転制御によって、年間57トンのCO2削減を達成したほか、排熱/ガス吸収式冷温水機の複合運転によるエネルギー削減で年間71トンのCO2削減を達成するなど、細かい改善にも取り組む。

 さらに、全社CO2削減推進委員会を2008年4月に発足し、CO2削減への取り組みをオフィス、研究所などにも広げ、全社規模で促進する。

 「環境への取り組みは、環境職能の社員だけの取り組みや、限られた範囲での取り組みではなく、経営のすべてにおいて、具体的な指標を掲げて取り組んでいる。進捗が遅れているドメインや、改善策の実行に苦労しているドメインに対しては、本社側から支援する体制として、エキスパートによって構成される低炭素FE(フィールドエンジニアリング)チームを派遣。2週間を目安として解決策を策定する。パナソニックグループ全体において、環境対策への遅れが許されない風土が築き上げられている」(中村グループマネージャー)。

次ページ「CO2だけでなく化学物質への対応も重要」に続く

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