iPhoneを持って此岸に立つ
「銀座近辺でゴルフバーと検索すると、自分が思っていた以上にたくさんあることが、iPhoneの地図アプリで分かります。銀座で働いていても、ただ歩いているだけでは最新情報にはなかなか気付きません。iPhoneによってその場所の位置情報を取得し、かつ俯瞰した情報をウェブから拾うことで、現実とウェブの情報が1つに統合されるのです。現実の世界に、ウェブの情報を1枚のベールのように貼り付ける感覚。現実の世界が、iPhoneによって装飾されていくイメージです」(小山氏)
これは、ウェブを街の中で使うことによる拡張現実の世界が広がりをよく表している。情報が遍在しているユビキタスのイメージとは違うかもしれない。しかし、より人を中心として、街という現実世界と、ウェブという仮想世界もしくは巨大な集合知を「マッシュアップして活用する」価値を提供してくれている。
「人は彼岸、あちら側をイメージすることで、此岸、こちら側のこと、つまり自分の周囲で起きたことを意味付けていました。現実だけを見つめるのではなく、仮想の世界を想定して、世界を捉えるやりかたがあるわけです。今目の前で起きている現実について、彼岸がこう設計されているから起きるのだ、と理解して考えていく。これは人間のクリエイティビティの根源にある思考の働きで、神話などはそこから生まれていきました。しかし現代は、短期的、現実的な指向が先行していて、ワールドモデルや理想を見失なっています。その中で、彼岸の情報で現実を広げ、クリエイティビティを刺激してくれるiPhoneは、貴重な“神話機能”をもったデバイスではないかと思うのです」(小山氏)
小山氏のiPhoneによる経験は、それまで自分が持っていたワールドモデルが新しくなり、気付きに溢れた現実空間を獲得したことだった。現実世界にウェブのレイヤーをかぶせて活用する感覚、その場所をウェブを使って理解する手段、これらのことを、小山氏は30代前後のこれからの世の中を背負う世代が経験して欲しいと語る。
1:1のコミュニケーションを取り持ってきたケータイは、此岸と彼岸、自分と社会の間を取り持ち、理解し、作用する「手段」としての役割を持つべきであり、iPhoneはそれを現実化した初めてのケータイになるのだ。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。
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