ムービーをエンコードする上で避けて通れないのが「ビットレート」だ。「CBR」や「VBR」、「1パス」や「2パス」などビットレートに関する専門用語を目や耳にしたことも多いだろう。
これまでムービーの画質は「ターゲット クォンタイザ」の値を変更してきた。JPEG保存時に指定する「画質レベル」と同じ感覚で指定できるのはいいが、出力されるファイルサイズがどの程度になるかは、実際にエンコードしなければ分からない。
たとえばアニメなどを録画して、1枚のDVDに1クール(13話)ぶんを入れたいとなれば、1話あたりのファイルサイズが自然に決まってくる(この場合は、4700MB÷13話≒360MB)。このように1話あたりのファイルサイズありきでエンコードするのが、ビットレートの設定なのだ。
ビットレート=ファイルサイズ=画質
そして超えられない壁
これまでの連載で、ファイルサイズが大きければ大きいほど高画質になるということが、実験で明らかになったことだろう。DivXではクォンタイザの値を1にすると最高画質のムービーとなるが、反面ファイルは大きくなる。逆にクォンタイザの値を10にすると画質は荒れるがファイルは小さくなる。
極論すると、ファイルがデカけりゃ高画質、ファイルが小さければガビガビ画質ということになる。ちょっと極論すぎだわ……。ハイビジョンのムービーと標準放送のムービーじゃ映像サイズが全然違うので、当然データサイズも異なってくる。したがって、正しく言うと、
同じ映像サイズで同じ尺(録画時間)のムービーであれば、
ファイルがデカいほど高画質となる。
さてここで注目するのは、同じ映像サイズで同じ尺なのにファイルサイズが大きくなったり小さくなったりするのかという点だ?
答えは簡単!
単位時間あたりのデータ量が違うからだ。
そのデータ量こそ「ビットレート」だ。ビットレートは単位時間を1秒、データ量をビット数で示し「bps」(ビーピーエス)という単位で表される。
たとえば1秒間に1ビット(0か1のデータを1個)の情報を転送できる場合は、1bpsとなる。こりゃコンピュータにしては激遅。トトトツーツーのモールス信号が1bps程度の転送量だ。がんばって1,000倍の速さで打鍵すれば、1秒間に1,000ビット=1kbps(キロ ビーピーエス)の転送量だ。
自分で音楽をMP3にエンコードする読者なら、192kbps~320kbpsなんて数値をよく見かけるだろう。これもやはりビットレートで、値を高くすると高音質になる。
ADSLなどのインターネット回線も、その速さがbpsで表されるが、単位はさらに上のMbps(メガ ビーピーエス)。いちばん遅いADSL回線の1Mbpsは、1kbpsの1,000倍なので1,000,000bps。その速さモールス信号の100万倍だ! さらに光ファイバー回線だと100Mbpsと超高速!
機器名 | ビットレート |
---|---|
モールス信号 | 1bps |
ファクシミリ | 1kbps |
携帯電話(音声通話) | 8kbps |
ISDN回線 | 128kbps |
MP3 | 200kbps前後 |
低速ADSL | 1Mbps(=1,000kbps) |
HDD/DVDレコーダ LPモード | 4Mbps(=4,000kbps) |
HDD/DVDレコーダ SPモード | 6Mbps(=6,000kbps) |
DVD最大ビットレート | 10Mbps(=10,000kbps) |
普及型ADSL | 12Mbps(=10,000kbps) |
光ファイバー | 100Mbps(=100,000kbps) |
USB 2.0(最大時) | 480Mbps(=480,000kbps) |
DDR2-800(PC6400)メモリ | 800Mbps(=800,000kbps)(※1ピンあたり) |
シリアルATA 1.0(最大時) | 1500Mbps(=1,500,000kbps) |
ムービーのビットレートも、100,000kbps(=100Mbps)ぐらいに設定できれば、そりゃもう目からウロコが落ちるぐらいの高画質ムービーになるが、実際にはDVDでも10,000kbps(=10Mbps)程度となっている。
そう、ビットレートが高ければ高いほど高画質ムービーになるのだが、色々と越えられない壁もある。インターネットを経由してムービーを再生するなら、その回線速度を超えることはできない。ハードディスクやDVDの転送速度を越えることも無理。そしてCPUの処理能力の限界もある。一気に大量のデータを送ると、CPUがデータを映像に変換する処理が間に合わなかったり、グラフィックボードが次々送られてくる映像を切り替えられなかったりで、動きがガクガクの映像になってしまうのだ。
ムービーのビットレートは、四面楚歌の越えられない壁を見極め設定するのだ!
(次ページへ続く)
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