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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第11回

ネットの「自由放任」は終わりだ

2008年04月08日 17時00分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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ケインズの警告


 有名な経済学者、ジョン・メイナード・ケインズは、1926年に「自由放任の終焉」という論文でこう述べている。

世界は、私的利害と社会的利害がつねに一致するように天上から統治されているわけではない。啓発された利己心は、つねに社会全体の利益になるように働くというのは、経済学の原理からの正確な演繹ではない。


 初期の研究者や専門家が集まったインターネットは「啓発された利己心」によって辛うじて秩序を保っていたが、全世界で10億人以上が参加する現在のインターネットに、そういう予定調和を期待することはできない。

 経済学でも、文字どおりの「自由放任」を主張する経済学者はいない。財産権の保護などの制度なしには、市場も機能しないのだ。選択の自由という概念は、判断能力のある大人についてのものであり、子供に「自己責任」を負わせるわけにはいかない。少なくとも親が子供の受信する情報を制限しようと思えばできる体制を、インターネット・サービス業者が取る必要がある。



民間の紛争処理機関を


 しかしケインズが提唱した裁量的な財政政策は、今日ではうまく行かないというのが経済学の常識だ。特にインターネットの場合、政府が集権的に情報を集めて、有害かどうかを判定する委員会を作るというのは非現実的である。それよりも、今あるインターネット・ホットラインセンターなどの紛争処理機関で、「有害だ」という申し立てがあったら、当事者同士で紛争を解決すべきだ。

 OhmyNewsの記事によれば、高市氏も、紛争処理機関としてホットラインセンターを想定しているという。しかし、現在、ホットラインセンターには苦情が殺到していて、昨年の受理件数は8万5000件にも達するというパンク状態だ。それを委員会がいちいち判断したり、是正命令を出したりするのは、よけいな業務を増やすだけだろう。

 それでは、インターネット協会が青少年保護のガイドラインを作り、ISPなどがホットラインセンターを資金的/人的に援助して、紛争処理機能を拡充してはどうか。いずれにしてもインターネットは、もはや自由放任で機能するユートピアではない。国家権力が出てくる前に対案を示せるかどうか、ネットコミュニティーの自治能力が問われている


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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