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【レポート】日本が世界に誇るマンガやアニメ、メディアアートの祭典――第11回文化庁メディア芸術祭

2008年02月12日 19時49分更新

文● 千葉英寿

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国立新美術館

会場となった国立新美術館

 文化庁と国立新美術館、おおび(財)画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会)が主催するメディアアートの祭典「第11回文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が、東京・六本木の国立新美術館において、今月6日から17日までの11日間に渡って開催されている。同展では今年度の文化庁メディア芸術祭賞において、アート/エンターテインメント/アニメーション/マンガの各部門で大賞、優秀賞、奨励賞を獲得した受賞作品と、審査委員会による推薦作品など、合計160点あまりが展示されている。会期中は受賞者シンポジウムやテーマシンポジウムなどのさまざまなイベントも行なわれる。また、未来のアーティストを発掘する「学生CGコンテスト受賞作品展」や「先端技術ショーケース '08」なども同会場において開催されている。

国立新美術館の会場内

会場内の様子

 文化庁メディア芸術祭受賞作品展は、従来のメディアアートのくくりにとらわれずに、ジャンルの垣根を越えて広がり続ける“メディア芸術” の世界を一堂に見ることのできる貴重な機会として毎年注目されている。今回から会場を例年開催されていた恵比寿の東京都写真美術館から、昨年(2007年)開館した国立新美術館に会場も“格上げ”された。これまでは施設構成の関係から各部門に分かれての展示となっていたが、ワンフロアで全部門の展示を鑑賞できる展示構成となっている。会場にはアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの各部門があり、そのほかに学生CGコンテスト、先端技術ショーケース、Media Art in the Worldのコーナーが設置されている。



<アート部門>


 会場を入るとすぐ右手にあるアート部門のエリアに、まず目を奪われる。インタラクティブアートの作品など、実際に体験できる大掛かりな作品が多く設置されており、会場内でも最も広いスペースを有している。アート部門の奥にはメインシアターがあり、常に各部門の映像作品が上映されている。


【優秀賞】
ビュー・ビュー・View[インタラクティブアート]/blue elephant


ビュー・ビュー・View

(C) 電気通信大学 稲見研究室 ビュー・ビュー・View[インタラクティブアート]/blue elephant

 電気通信大学知能機械工学科稲見研究室の有志によるグループ“blue elephant”による作品。ウェブカムや携帯電話のテレビ電話機能などにより、視覚や聴覚によるリアルなテレコミュニケーションが身近なものとなったが、嗅覚や味覚といったその他の五感を再現するのは、(その必要性も含めて)まだ実現への道は遠い。本作はもうひとつの五感である触覚にフォーカスし、離れた場所にいる相手とスクリーンを通じて、風によるテレコミュニケーションを実現している。つまり、スクリーンの向こうにいるに人物の動作によって、こちらの手元にある風鈴が揺れたり、ロウソクの火が吹き消されるといった事が起こる。遠くにいる相手の息遣いを感じることができ、テレコミュニケーションに新たな可能性を提示している。厳密に言えば、アートとは言えないのかもしれないが、アートとテクノロジーが密接に関わり合ってきている昨今、こうしたアプローチにもぜひ、注目したい。


【推薦作品】
Slot Machine Drawing[インタラクティブアート]/草地映介、渡邊淳司


Slot Machine Drawing

(C) Eisuke Kusachi Junji Watanabe Slot Machine Drawing[インタラクティブアート]/草地映介、渡邊淳司

 手元のレバーを操作することで回転するキャンバスに絵を描くことができる装置。こちらが意図を持って描こうとしても、キャンバスが回転しているために、思いもよらない絵になってしまう。もどかしいがその意外性が楽しい作品。


【推薦作品】
ためいきまじり[インタラクティブアート]/坂本のどか


ためいきまじり

(C) 坂本のどか ためいきまじり[インタラクティブアート]/坂本のどか

 蛇口をひねるとなぜか水ではなく、「はあ~ん」とため息が流れてくる作品。ため息は作者の坂本さんが自ら吹き込んだもので、4つの蛇口それぞれに異なるため息が吹き込まれている。4つの蛇口をすべてひねると、もれ出る4つのため息が妙な共鳴を起こし、なんとも不思議な気持ちのいい雰囲気を醸し出す。蛇口がそのまま音量調整用の設備になっており、それぞれの蛇口の下にある排水口がスピーカーになっている。坂本さん曰く、「大学にある気持ちのいい中庭で、作品のアイデアをひねっている時に“思わず出たため息”がヒントになった」のだそうだ。こういう脱力系の作品がもっとあってもいいと思う。


【優秀賞】
Camera Lucida: Sonochemical Observatory[インスタレーション]/Evelina Domnitch、Dmitry Gelfand(オランダ)


Camera Lucida: Sonochemical Observatory

(C) Evelina Domnitch and Dmitry Gelfand Camera Lucida: Sonochemical Observatory[インスタレーション]/Evelina Domnitch、Dmitry Gelfand

 「音ルミッセンス」と呼ばれる現象を使って、見えないはずの音波を視覚化したインスタレーション。薄暗い展示スペースに入り、目が慣れてくると、液体の中でうごめくような泡が見えてきて、生物のように怪しく光っている。物理学や化学、コンピューター・サイエンスを神秘的な哲学の実践と融合させた、知覚によるイマージョン環境を創造してきた2人の作者が、最新技術とインスタレーション表現で描き出した映像は、これまで見たこともない不思議な美しさで満ち溢れている。


【優秀賞】
Camera Lucida: Sonochemical Observatory[インスタレーション]/Evelina Domnitch、Dmitry Gelfand(オランダ)


Se Mi Sei Vicino(If you are close to me)

(C) Sonia Cillari Se Mi Sei Vicino(If you are close to me)[インタラクティブアート]/Sonia Cillari

 巨大な2つのスクリーンの前に設置されたフロアにパフォーマーの女性が立っている。このフロアにはセンサーが内蔵されており、そこに立つパフォーマーはアンテナの役割をしているという。体験者がパフォーマーに近づいたり、触れたりすることで、スクリーンに映し出されたCG映像とサウンドが変化するという仕組みだ。これはパフォーマーが触覚を通じて、外部から受ける影響を映像と音で再現しているもので、パフォーマー自身の身体感覚を他者が視覚的、聴覚的に感じることができる。自分が近付くとパフォーマーはどう感じるのか、「なんだかドキドキするのはこっち」という作品だ。


【推薦作品】
Sight seeing spot[インスタレーション]/萩原健一


Sight seeing spot

(C) Kenichi Hagihara Sight seeing spot[インスタレーション]/萩原健一

 人がポートレート写真を撮影される前の、挙動や表情を記録した映像インスタレーション。人の仕草を見ているだけなのに、リアルな映像がなんだか目の前に実際に人がいるような妙な感覚にとらわれ、自分の仕草まで気になってくる。


【大賞】
nijuman no borei[映像]/Jean-Gabriel Periot


nijuman no borei

(C) Envie de Tempete Productions nijuman no borei[映像]/Jean-Gabriel Periot

 広島の原爆ドームを知らない日本人はいないだろう。しかし、原爆ドームとは原爆が投下されてからの歴史だ。本作では、1915年に広島県物産陳列館として開館した同所が、1945年に米軍による原爆投下によって廃墟となり、その後は負の世界遺産として現代に至るまでの約90年の歩みを、1000 枚もの写真でつづり、コマ取りのアニメーションのように重ねて作った“時をコラージュしたドキュメンタリー”だ。静かなモノローグが流れるなか、ドームを中心にその周辺の変化も含めて、建設と破壊、復興の過程がドラマチックに展開されていく。フランス人である作者が核廃絶に向けて真摯にメッセージを発信することで、メディアアートに何ができるかを、静かに提示している意義深い作品だ。


【奨励賞】
Super Smile[映像]/Effie Wu


Super Smile

(C) Effie Wu Super Smile[映像]/Effie Wu

 5分近くある全編を通して、作者自身が“スーパー・スマイル”と呼ぶ、まったくまばたきもしない笑顔をカメラに向け続け、自身の部屋を案内する。鑑賞者は、とびきりの笑顔のままでまったく変化を見せない作者の顔に釘付けになるとともに、見続けていると「本当はCGかなにかなのではないのか?」と疑いの目で見てしまう。しかし、目をこちらに向けたままで歯磨きを始めるところでは、その異様さに一瞬たりとも見逃さずにはいられなくなり、そのころには完全に作者や作品の虜になっている自分自身に気づく。なんだか「してやられた!」と、思わず降参してしまう作品。

作者のEffie Wu氏

作者のエフィー・ウー(Effie Wu)さん。台湾台北市生まれで、2007年にベルリン芸術大学での実験的メディア・アートを修了し、現在はベルリンで活動している。「この作品は多くの人に私に注目してほしいと思い、とびきりの笑顔でつくったのですが、トゥーマッチだったようです」とユーモアたっぷりに語った


【優秀賞】
ISSEY MIYAKE A-POC INSIDE.[映像]/佐藤雅彦+ユーフラテス


ISSEY MIYAKE A-POC INSIDE.

(C) (株)イッセイ ミヤケ ISSEY MIYAKE A-POC INSIDE.[映像]/佐藤雅彦+ユーフラテス

 ISSEY MIYAKE による新ブランド「A-POC INSIDE」のプロモーション映像。黒地に白い点や文字だけの構成されているが、その動きから一目でファッションモデルたちの動きをいきいきと再現していることに気づく。認知科学に基づいて点と線だけで表現されているが、見る側が(無意識のうちに)その動きを記憶していることで、点と線の表現だけで何の動きかを引き出すことができるというわけだ。PSソフト「I.Q.」やヒット曲「だんご3兄弟」の作詞・プロデュースで知られる佐藤雅彦氏(東京藝術大学大学院映像研究科教授/慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授)が、NHK教育の人気番組「ピタゴラスイッチ」の制作に携わるユーフラテス(有)(慶応大学佐藤雅彦研究室の卒業生からなるクリエイティブグループ)とともに手がけた作品。


【推薦作品】
Stbabillity, Disaster Log[インタラクティブアート]/Karolina Sobecka


Stbabillity, Disaster Log

(C) karolina sobecka Stbabillity, Disaster Log[インタラクティブアート]/Karolina Sobecka

 鑑賞者が動かすことのできる立方体が置いてあり、あたかもその立方体の中に部屋があるかのような映像を映し出している。立方体を動かすと、そのバーチャルな部屋の中にある家具や人も動く。まるで自分が巨人になったかのようだ。さらに立方体を大きく動かしたり、振ったりすると、部屋は大変なことになってしまうが、その後で中の人が後片付けをする。「自分は絶対、その中の人にはなりたくない」と思った。

作者のKarolina Sobecka氏

作者のKarolina Sobecka(カロリナ・ソアベッカ)さん

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