2007年12月下旬から大ヒット公開中のディズニーアニメ最新作「ルイスと未来泥棒」が全国で話題になっている。同作品はディズニーが初めて描く<未来世界>であり、養護施設に育ったひとりぼっちの少年ルイスが<本当の家族>を探すために、得意の発明に勇気と希望を持って未来を冒険するひたむきな姿を描いた、感動のファンタジー作品だ。
同作品で描かれている「未来世界」とは、スティーブン・アンダーソン(Steven Anderson)監督とロブ・ラッペル(Robh Ruppel)美術監督がウィリアム・ジョイス(William Joyce)の原作絵本「ロビンソン一家のゆかいな一日」の世界観に着想して描いたもの。1930年代の未来派の工業デザインや、当時の建築様式である流線的なフォルムなどを参考にしたレトロフューチャー的なデザインの中に、子どもの視点を失わない楽しさから発想された、さまざまなアイデアがちりばめられている。また、透明なチューブ・エレベーターが天空を巡り、シャボン玉のようなバブルの中に入って移動する乗り物など、見ていて飽きない奇想天外でファンタジックなメカが次々と現われるのも本作の楽しみのひとつだろう。さらに米ピクサー社(Pixar Animation Studios)がディズニーの傘下となったことで、ディズニーのアニメーション部門のトップとなったジョン・ラセター(John Lasseter)監督が、本作品の製作総指揮を担当している。
さらに本作品は、2005年の「チキンリトル」に続き、新作としてはディズニー・デジタル3Dの第2弾となる3D公開作品であり、国内における3D上映館が前回のわずか2館から30館へと一気に拡大したことでも話題を呼んでいる。今回は、作品の制作を指揮したプロデューサーのドロシー・マッキム(Dorothy McKim)氏に、作品について、またデジタル3Dの現状についてお話をうかがった。
大人より子どもの方が
時間旅行に慣れている!?
―― タイムトリップによる未来世界を描いたり、養護施設の少年を主人公にするなど、これまでのディズニー作品はあまり見られなかった部分がテーマになっていますが、これらのテーマはどのように見出されたのでしょうか?
マッキム氏 本作のストーリーは、監督であるスティーブ・アンダーソンがたどってきた旅路でもあるのです。彼自身、養子に迎えられた経験がありまして、家族の部分については彼のストーリーだと言っていいと思います。また、私たちがこの映画を作っていくにあたって、観客のみなさんが今まで行ったことのないところにお連れしよう、と考えました。そして、それを未来ではないかと考え、それで未来を描くことになったわけです。未来の世界でどんなことができるかと考えた時に、例えば、シャボン玉の中に入ってあちこちに移動できたり、空を走るチューブがあったりとか、本当に未来は希望に満ちた世界だということを私たちは描きました。
―― まさに希望にあふれる未来を描いていると思いますが、ルイスにとっての「希望」とはなんでしょう?
マッキム氏 ルイスにとって、未来というのは自分の家族を見つけられる場所であり、彼にとっての希望だったと思います。自分が作ったメモリースキャナーが壊れ、お母さんを探しに行くという夢もかなえられなくなり、現代の世界では完全に希望を失ってしまいました。ところが、未来に行って自分の家族に出会うことによって、それが希望に変わったのです。
―― ルイスは自ら希望を切り開いたのでしょうか?
マッキム氏 現代で希望を失ったルイスには、「ウイルバー」という希望がありました。ウィルバーは自分が犯してしまった過ちを直さなければ、自分が存在している未来は存在しないことになってしまいます。それにはルイスとともにメモリースキャナーを直しに行かなければならないわけです。
―― ルイスのルームメイトで不遇な少年・グーグがいますが、この愛すべきキャラクターにモデルはいるのでしょうか?
マッキム氏 今回、すべてのキャラクターデザインを担当したジョン・モジャーの描くキャラクターそのものを私はとても気に入っているんですが、中でもグーグは私のお気に入りのキャラクターです。グーグは常にルイスの助けをしたい、お手伝いをしようとしていて、そんなところもとても好きです。残念ながらモデルはいませんが、今回グーグの声を務めてもらう声優に、子役のマシュー・ジョステンが決まってから、ジョンがマシュー(の個性)を基にどんどんキャラクターを作り込んでいったということがありました。
―― タイムトリップや未来世界を描くのは難しかったのではないでしょうか?
マッキム氏 ストーリーの進行上、未来と現代を行ったり来たりしなければならないので、そこが少し分かりづらいのではないかと思いました。そのため現代を暗めに、未来を明るい色で表現し、使い分けることにしました。事前にさまざまな世代に対して、「フォーカスグループ」(グループ単位での情報収集)というものを行なったのですが、子どもは未来と現代を自由に行ったり来たりできるのに、大人の方がそれについて来れていないということが分かりました。子どもは想像力で(時間軸を)自由に行き来できて、リラックスして観ているようでした。
―― 伝統的なアニメーションの表現はCGだと難しいと言われています。CGで描く上で課題となったことはありましたか?
マッキム氏 今回の大きな挑戦が、人間のキャラクター(をCGで描く)ということでした。CGの世界では動物の方がやりやすく、人間は難しいと言われています。やりすぎてしまって実写のように見えてしまっては困るし、あくまでもアニメーションという形は残さなければならないのです。ところが、アニメとは言えども、人間を出す時には、肌や髪の毛の質感だったり、あるいは着ているものだったりとか。そういうものの質感はある程度のものにしておかなければならないわけです。そういうところでバランスを保たなければならないのが、難しかったですね。
―― ディズニーのCGに対するアプローチはどのようになるのでしょう?
マッキム氏 今後はCGを用いた映画はどんどん増えて行くと思います。ただ、ディズニーに在籍して私がとても期待を持っているのは、ディズニーは決してCG だけをやる会社ではなく、これから先も手描きをやっていく会社だということ。両方のメディアを使って、私たちはアニメーションを創っていけるという点なんです。確かにCGの場合、監督ができることが広がるという意味においてはとてもにいいと思います。あたかも実写の撮影をしているがごとく、カメラワークできますし、例えば、今回の「ルイス~」なら、ルイスの顔に“そばかす”がありますが、CGなら簡単に付けることができるわけです。これを手描きでやろうと思ったらとても大変で、労働集約的な作業にならざるをえません。そうは言っても、(CGを)やりすぎてしまうと観客の目についてしまいますので、うまくバランスを取っていかなければならないということもあるのです。
―― 今回から製作総指揮にジョン・ラセター氏が加わりましたね。今後、ディズニーとピクサーとはどのような関係性を持っていくのでしょうか?
マッキム氏 ジョンは一週間のうち、2日をディズニーのスタジオで過ごし、残りの3日間はピクサーのスタジオにおります。ピクサーの映画はピクサーのロゴが入っていなくても、一目でピクサーと分かる独自のスタイルがあります。そして、わたしたちウォルト・ディズニーにも独自のスタイルがあり、また、過去から引き継いできたものもあります。あくまで違うスタイルを持ったスタジオとして、今後もディズニーとピクサーは違う路線で、それぞれで映画を作っていくことになると思います。
―― ラセター氏との仕事はいかがでしたか?
マッキム氏 彼が加わってくれたことにとても期待をしていますし、楽しんでもいます。彼は本当に現代版ウォルト・ディズニーと言ってもいいと思います。とても情熱があって、常に子どもの目線を忘れない。なおかつ、彼は映画製作を十分に知っている人なのです。実は私たちのスタジオでウォルト・ディズニー以来、映画製作を十分に知っていて、さらにトップに就いた人はいなかったのです。そういう意味では、彼がトップについたことに私はうれしく思っています。
―― もし、日本の監督と一緒に仕事をするとしたら?
マッキム氏 やはり宮崎 駿監督でしたらやってみたいですね。宮崎さんはすばらしい映画を創られていますし、独特のスタイルを持っていると思います。
―― マッキムさんのプロデュースされる次回作は、どのようなものをお考えですか?
マッキム氏 私はデベロップメント・プロデューサーとして4人の監督を担当しているのですが、その中にはCGでやりたいというも監督もいます。個人的にはできればスティーブの次回作に関わりたいと思っています。