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近い将来コンテンツ産業での活躍が見込まれる若い実力者たち

【レポート】実力派高校生たちがアキバに集った夢の舞台――アニメ甲子園2007

2007年12月31日 00時53分更新

文● 千葉英寿

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アニメ甲子園

今回が初の開催となったアニメ甲子園

 秋葉原の東京アニメセンター内アキバ3Dシアターにおいて23日、高校生のための自主制作アニメーションの全国コンクールである「第1回高校生アニメフェア」(通称:アニメ甲子園2007)の最終審査および表彰式が開催された。主催はNPO法人 学校マルチメディアネットワーク支援センター(smn)、共催は東京アニメセンター。経済産業省ならびに文化庁、日本動画協会、日本音声製作者連盟の後援により開催された。

高校生たちが運営する手作り感ある会場を
お笑いコンビ響のお二人が盛り上げる


 本イベントを主催するsmnは、未来のコンテンツクリエイターの発掘と育成を目標に、全国1800校を超える高校の参加を得ており、学校文化の振興事業を推進している。アニメ甲子園もまた、そうした活動の一貫として開催されたもの。すでに開催されている「音楽甲子園」「映画甲子園」と同様に、コンテンツ産業に向けた人材の発掘・育成を目標としており、アニメーターや声優を志望する高校生たちが、アニメーション産業に第一歩を踏み出す大会となっている。

 本年9月に作品受付を開始した本大会には、全国の高校生から「ストーリー/企画部門」に13作品、「キャラクターデザイン/メカデザイン部門」に103作品、「ヴォイスアクト(声優)部門」に93名、「オリジナルアニメーション作品部門」に80作品と、総数289件の応募があった。当日の最終審査の対象となったのは、一次審査を通過したストーリー/企画部門の8作品、キャラクターデザイン/メカデザイン部門の24作品、ヴォイスアクト部門の8名、アニメーション作品部門の15作品。この中から、アニメーション/声優業界のプロフェッショナルが審査にあたり、その結果、選考した最優秀ストーリー賞、最優秀デザイン賞、最優秀ヴォイスアクト賞、最優秀作品賞をはじめとする各賞の発表および表彰が行なわれた。

響のおふたり

緊張しがちな会場を大いに盛り上げてくれた響のおふたり

 本大会の当日運営は高校生ボランティアスタッフが行なっており、開会に際しての司会も高校生スタッフが務めた。開式を宣言して審査員を紹介し、最初のメインプログラムとなるヴォイス・アクト部門の最終演技に移るところで、お笑いコンビの響(ひびき)にバトンタッチした。高校生スタッフのフレッシュな司会ぶりとはまた違って、響のお二人の軽妙なトークで最初は緊張気味だった会場が柔らかく解きほぐされ、ライブ形式という演技者にとっては大変なプレッシャーとなるヴォイス・アクト部門の最終演技が、和やかな雰囲気で進められることとなった。

 最終演技は、課題作品である「新世紀エヴァンゲリオン」のワンシーンに対してアフレコで演技をするもので、女子3名の組が2組、男子2名が1組の計3組で演技が行なわれた。女子の組が演じたのは、惣流アスカラングレーが碇シンジに声をかけ、初めて綾波レイに出会う印象的なシーン。3名がアスカ、シンジ、綾波のそれぞれを持ち回りで演技した。男子の組では、シンジと渚カヲルが対峙する難しいシーン。こちらも同様に2名がそれぞれシンジとカヲルを演じた。キャラクターの個性と演技者の個性の違いから、さまざまなイメージのアスカ、シンジ、綾波、カヲルが登場することとなったが、いずれも高校生とは思えないハイレベルな演技で、演技が終わるたびに会場から“ため息”とも“どよめき”ともつかない反応が見られた。

ヴォイスアクトの最終演技の様子

ヴォイスアクトの最終演技は、女子は3名づつ、男子は2名で、それぞれ観客を前にライブ形式で行なわれた

 ヴォイス・アクト部門の最終演技が終了すると、審査員が一旦退場し、アニメーション作品部門の一次通過15作品の上映会に移った。なお、ストーリー/企画部門ならびにキャラクターデザイン/メカデザイン部門の作品は会場ロビーにおいて展示された。



受賞作品の完成度、独自の発想には審査員も脱帽


 上映会の後に休憩が終了すると、いよいよ審査結果の発表と表彰式となった。引き続き、響が司会進行を務めた。まずはじめに贈賞の予定がなかった「審査員特別賞」が発表された。続いて高校生スタッフの審査によって決まる「高校生審査員賞」、共催の東京アニメセンターからは「TAC賞」、学校マルチメディアネットワーク支援センターから贈られる「SMN賞」と進んだ。

ヴォイスアクト部門の審査員特別賞

ヴォイスアクト部門で審査員特別賞を獲得した慶應義塾湘南藤沢中・高等部3年の末政舞香さん(右)と香川県立高松西高等学校2年の別府祥子さん

キャラクターデザイン/メカデザイン部門の審査員特別賞

キャラクターデザイン/メカデザイン部門で審査員特別賞を受賞した渋谷教育学園幕張中学校 3年の河野祐樹君

ヴォイスアクトの高校生審査員賞

ヴォイスアクト部門において高校生審査員賞を受賞した東京都立町田高等学校3年の増山鈴乃音さん

 後援の日本動画協会から贈られる「日本動画協会賞」は、高校生審査員賞も獲得したストーリー・企画部門の東京工業大学附属科学技術高等学校2年の荒井和人君による「CORD」が受賞した。最も優れたストーリー・企画に贈られる「最優秀ストーリー賞」は、愛知県立旭陵高等学校4年の大谷沙羅さんによる「調魂師」が受賞した。続いて、最も優秀なキャラクターデザイン/メカデザインに与えられる「最優秀デザイン賞」は、静岡県立浜松湖南高等学校3年の山下絵美さんが描いた「一つ目」が受賞した。「一つ目」について、キャラクターデザイン/メカデザイン部門の審査にあたった(株)サンライズの「銀魂」チームの高松信司監督に代わって挨拶に立った、同社プロデューサーの若鍋竜太氏は「今のアニメから出てきたような作品が多い中にあって、それとは違ったものを持った作品だと思います」と授賞理由を語った。

キャラクターデザイン/メカデザイン部門SMN賞の大平恵里翔さん

「重光 寿々子」でキャラクターデザイン/メカデザイン部門でSMN賞を受賞した愛知県立愛知工業高等学校3年の大平恵里翔さん

日本動画協会賞とストーリー・企画部門の高校生審査員賞を受賞した荒井和人君

「CORD」で日本動画協会賞を受賞した東京工業大学附属科学技術高等学校2年の荒井和人君。同時にストーリー・企画部門の高校生審査員賞も受賞した

最優秀デザイン賞の山下絵美さん

響のインタビューを受ける、「一つ目」で最優秀デザイン賞を受賞した静岡県立浜松湖南高等学校3年の山下絵美さん

日本音声制作者連盟賞の堤 明日香さん

声優や音声制作のプロの団体である音声連が選ぶ日本音声制作者連盟賞は福岡県立ありあけ新世高等学校3年の堤 明日香さんが受賞した

 次にライブ形式の熱い最終演技を繰り広げたヴォイス・アクト部門の優秀者が発表された。まず、後援の日本音声製作者連盟から贈られる「日本音声制作者連盟賞」は、福岡県立ありあけ新世高等学校3年の堤 明日香さんに決まった。そして、注目のヴォイスアクト部門の最優秀者となる「最優秀ヴォイスアクト賞」は、洗足学園高等学校1年の田頭里奈さんに決まった。参加していた業界関係者からは「(ヴォイスアクト部門の参加者には)すぐに声優としてデビューできるレベル。ここからアイドル声優も生まれるのでは?」との声が聞かれた。

ヴォイスアクト部門TAC賞の上野壮大君

ヴォイスアクト部門でTAC賞を受賞した北陸学園北陸高等学校1年の上野壮大君

ヴォイスアクト部門SMN賞の園邊はるかさん

ヴォイスアクト部門でSMN賞を受賞した文華女子高等学校2年の園邊はるかさん

 受賞者インタビューで「受賞を誰に一番に知らせたいか?」との質問に対して、堤さんは「応援してくれた地元の学校の友達に伝えたいです」と語った。また、「どうやって練習しているのですか?」との質問に田頭さんは、「自宅の自分の部屋で練習していましたが、家族には応募したことは黙っていました」と答えた。インタビュアーが驚いて「家の人は知らないのですか?」と聞き返すと、「今日はお母さんが来てくれました」と答え、客席のお母さんが立ち上がって、うれしそうな表情で手を振るという微笑ましい一幕もあった。

最優秀ヴォイスアクト賞の田頭里奈さん

最優秀ヴォイスアクト賞には洗足学園高等学校1年の田頭里奈さんが選ばれた

響のインタビューを受ける田頭さん

響のインタビューを受ける田頭さん

 最後の贈賞となる「最優秀作品賞」は、高校生審査員賞も獲得した埼玉県立芸術総合高等学校3年の田中陽子さんが制作した「HEARTS」が受賞した。受賞者インタビューで「自信はありましたか?」との問いに、一瞬戸惑った後で田中さんは「自信というか、とても可愛がってきた作品でしたので……」と答え、作品への思い入れの深さを垣間見せた。また、3年生ということで、卒業後の進路をたずねてみると、「アニメーションを専門に学ぶところに決まっています」と答え、数年後には確実にアニメ業界の新戦力となることが分かった。

最優秀作品賞の田中陽子さん

本大会の最高栄誉となる最優秀作品賞は埼玉県立芸術総合高等学校3年の田中陽子さんが制作した「HEARTS」が受賞した。響のふたりにインタビューを受ける田中さん。作品への思い入れの深さを語った

 各賞の発表・表彰が終了した後で、審査員による講評があった。ストーリー・企画部門を審査した(株)スタジオディーンのわたなべひろし監督は「作品を生み出すのは素晴らしいこと。僕も高校時代に自主制作したことがプロになって役立ちました」と述べた。キャラクターデザイン/メカデザイン部門ではサンライズの若鍋プロデューサーが「自分が高校生の時にこれまでできただろうか? と自分に問いかけてしまうほどの完成度の高さだと思った」と語った。

審査員のみなさん

左から明田川氏、わたなべ監督、若鍋氏、桑原監督の審査員のみなさん

大崎清志理事長

閉会の挨拶に立った学校マルチメディアネットワーク支援センターの大崎清志理事長

 ヴォイス・アクト部門の審査を担当した(株)マジックカプセルの明田川 進氏は「みなさんレベルが高く審査員や関係者の中にこの子なら使ってみたいという声もありました。音声連の賞では将来有望で高校生らしさを評価しました」と高く評価。オリジナルアニメーション作品部門では(株)手塚プロダクションの桑原 智監督が「応募作品ひとつひとつが本人にとってのナンバーワンの作品ですから、優劣をつけるのが難しかったです。新しいものにドンドン挑戦していってほしいですね。とにかく強敵がたくさんいますので、自分もがんばらなければと思いました」と語った。

審査員のみなさん

最後は高校生ボランティアスタッフも加わって、和やかにフォトセッションが行なわれた



 各賞の受賞者は以下の通り(敬称略)。

[最優秀作品賞]
「HEARTS」
田中陽子 埼玉県立芸術総合高等学校 3年

[最優秀作品賞]ならびに[高校生審査員賞]オリジナルアニメーション作品 「HEARTS」(埼玉県立芸術総合高等学校 3年 田中陽子)

[最優秀ヴォイスアクト賞]
田頭里奈 洗足学園高等学校 1年
[日本音声制作者連盟賞]
堤 明日香 福岡県立ありあけ新世高等学校 3年

[最優秀デザイン賞]
「一つ目」
山下絵美 静岡県立浜松湖南高等学校 3年
一つ目

[最優秀デザイン賞]「一つ目」(静岡県立浜松湖南高等学校 3年 山下絵美)

[最優秀ストーリー賞]
「調魂師」
大谷沙羅 愛知県立旭陵高等学校 4年
[日本動画協会賞]
「CORD」
荒井和人 東京工業大学附属科学技術高等学校 2年


[SMN賞]

ヴォイスアクト部門
園邊はるか 文華女子高等学校 2年

キャラクターデザイン/メカデザイン部門
「重光 寿々子」
大平恵里翔 愛知県立愛知工業高等学校 3年
重光 寿々子

[SMN賞」キャラクターデザイン/メカデザイン部門「重光 寿々子」(愛知県立愛知工業高等学校 3年 大平恵里翔)


オリジナルアニメーション作品
「忘れもの」
廣田麻衣夢 山口県鴻城高等学校 3年

[SMN賞]オリジナルアニメーション作品部門「忘れもの」(山口県鴻城高等学校 3年 廣田麻衣夢)

ストーリー・企画部門
「獣の戯れ」
岩崎亜衣子 長崎県立長崎西高等学校 1年


[TAC賞]

ヴォイスアクト部門
上野壮大 北陸学園北陸高等学校 1年

キャラクターデザイン/メカデザイン部門
「トビ/リン」野澤綾子 愛知県立起工業高等学校 1年

[TAC賞]キャラクターデザイン/メカデザイン部門「トビ/リン」(愛知県立起工業高等学校 1年 野澤綾子)

オリジナルアニメーション作品
「ヤモリ レストラン」森田志穂 作新学院高等学校 3年

[TAC賞]オリジナルアニメーション作品部門「ヤモリ レストラン」(作新学院高等学校 3年 森田志穂)

ストーリー・企画部門
「Rivers」岡田耕輔 京都市立紫野高等学校 2年


[高校生審査員賞]

ヴォイスアクト部門
岡田耕輔 京都市立紫野高等学校 2年
増山鈴乃音 東京都立町田高等学校 3年

キャラクターデザイン/メカデザイン部門
「プラン」
齊藤有里子 常葉学園菊川高等学校 3年
プラン

[高校生審査員賞]キャラクターデザイン/メカデザイン部門「プラン」(常葉学園菊川高等学校 3年 齊藤有里子)

ストーリー・企画部門
「CORD」
荒井和人 東京工業大学附属科学技術高等学校 2年
オリジナルアニメーション作品
「HEARTS」
田中陽子 埼玉県立芸術総合高等学校 3年


[審査員特別賞]

ヴォイスアクト部門
末政舞香 慶應義塾湘南藤沢中・高等部 3年
別府祥子 香川県立高松西高等学校 2年
キャラクターデザイン/メカデザイン部門
「魑魅」
河野祐樹 渋谷教育学園幕張中学校 3年
魑魅

[審査員特別賞]キャラクターデザイン/メカデザイン部門「魑魅」(渋谷教育学園幕張中学校 3年 河野祐樹)


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