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家電各社の大画面テレビの動向は

【CES 2008 Vol.8】08年の大画面テレビのトレンドは「デザイン」と「ネット対応」?

2008年01月09日 10時00分更新

文● 編集部 小西利明

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 米国最大の家電見本市である「2008 International CES」(以下CES 2008)の主役は、デジタル放送対応の大画面テレビである。日本や韓国の大手家電メーカーは競って新製品を発表し、各メーカーのブースは大量の大画面テレビが埋め尽くす。

ここ数年のCESの目玉は大画面テレビ

ここ数年のCESの目玉は大画面テレビ。各社のブースでは40~60インチ級の新製品が並び、まさに百花繚乱

 これら新製品や各社の発表を眺めていくと、2008年の大画面テレビ市場のトレンドが見えてくる。特に今年各社が強調したのが、「デザイン」と「インターネットでの映像・コンテンツ配信対応」だ。


新製品では薄さやデザインを強調

 ここ最近のCESでの大画面テレビを振り返ってみると、2006年までは「パネルの大きさ」を、2007年は120Hz駆動や8bitを超える色処理など「高画質化技術」をアピールするメーカーが多かった。これらは、大きなディスプレーパネルの低コスト化や、映像処理回路など半導体部分の低コスト化とノウハウの蓄積によって実現されるものだ。

 ところが、今年各社の新製品で高画質以上に強調されているのは、デザイン面に関する要素であった。例えば、韓国LG電子社や韓国サムスン電子社の記者説明会では、スピーカー部分が正面から目立たない構造や、ベゼル部分のデザインなどを強調していた。

LG電子の説明スライド

消費者は「画質」「デザイン」を重視するようになっているとした、LG電子の説明スライド

 一例を挙げると、LG電子の記者説明会では「消費者は学習しており、(価格よりも)画質やデザインを重視する方向に進んでいる」と、アンケート調査のグラフを提示しながら説明している。80~100インチを超えるような超大型テレビは、150インチの大画面プラズマテレビを発表した松下電器産業(以下パナソニック)を除けば影を潜めた。120Hz駆動などの高画質化技術は、上位機種では当たり前のように導入されている。

今年は100インチ超の製品をアピールしていたのはパナソニックだけ

昨年までのCESでは、「世界最大の~」とか「世界初の~」というキャッチフレーズで巨大なサイズのテレビが発表されるのが通例だった。しかし、今年は100インチ超の製品をアピールしていたのはパナソニックだけ。それゆえに、150インチプラズマテレビは注目を集めた

 一方の日本メーカーは、すでに2006~7年の新製品でデザイン面の要素を取り入れている。また、2007年後半以降はパネルの薄型化をアピールするメーカーが増えたが、これもデザイン面に関わる要素と言えよう。その意味では、2007年のCESで高画質化技術がトレンドとなったように、“薄型・デザイン重視”という日本のトレンドが、1年遅れで米国にも上陸するといった従来どおりの傾向を踏襲しているようにも見える。しかし、そこには北米市場ならではの深刻な事情がある。低価格テレビメーカーの台頭だ。

 2007年の米国液晶テレビ市場のシェア争いで最も劇的だったのは、小規模な新興企業である米Vizio社の大躍進であった。Vizioの強みはずばり低価格。2007年第3四半期にVizioの市場シェアがトップとなった時には、日本でも大きく報道されたものだ。Vizioは伝統的な家電メーカーでもなければ、シャープやサムソンのように液晶パネルの製造大手でもない。パネルや半導体の調達から本体の製造までを外部に委託する企業である。自社で高い製造技術やノウハウをもたなくとも、必要な部材や製造工場は外部から調達可能となる“パソコン的な水平分業化”が、液晶テレビの世界でも顕著になった。その現われがVizioの躍進である。

 大手家電メーカーとしては、赤字覚悟の叩き売りでVizioに対抗していては利益にならない。Vizioがただちに追いつけない分野で差別化を図る必要がある。そこでクローズアップされるのがデザインであるわけだ。薄型化や狭ベゼル化を実現するには、パネルやコンポーネントの薄型・小型化の技術が欠かせない。技術の発達を踏まえたデザインを実現する、工業デザインのノウハウも必要だ。これらは外部調達がまったく不可能な要素というわけではないが、時間とコストをかけて自社で技術やノウハウを開発してきた大手メーカーに比べれば、Vizioが追いつくには時間のかかる要素である。2008年の大画面テレビ市場でVizioと戦うには、スタイリッシュなデザインを実現する技術で差別化するしかない。こうした事情が、各社がおしなべて「デザイン重視」を打ち出した理由であろう。

薄型で狭ベゼルをアピールしていたLG電子の液晶テレビ

薄型で狭ベゼルをアピールしていたLG電子の液晶テレビ新製品。韓国の2社は、前面の面積を左右するスピーカーの小型化を強調していた

ビクターはプライベートショウで、薄型狭ベゼルの液晶パネルを出展

ビクターはプライベートショウで、薄型狭ベゼルの液晶パネルを出展。バックライトの薄型化で薄さを実現しているという

 大手家電メーカーの差別化路線が功を奏するか、現時点では分からない。2008年の北米大画面テレビ市場の動向は非常に興味深いものとなる。


テレビのネット対応が急激に進む?

 デザイン重視と並ぶ2008年のトレンドとなりそうなのが、“テレビ単体で映像配信やアプリケーションを利用できる”という、「テレビのネット対応」である。

パナソニックはGoogle、Youtubeとの提携を発表して話題を呼んだ

パナソニックはGoogle、Youtubeとの提携を発表して話題を呼んだ。ネットとの連携は間違いなく今年のテレビのトレンドである

 例えば、パナソニックは基調講演の中で、GoogleやYoutubeとの提携を発表して話題を呼んだ(関連記事)。また、ソニーは米CBS社と提携し、液晶テレビ「ブラビア」のネット機能「ブラビア・インターネットビデオリンク」向けに映像配信を行なうことを発表している。

 同様に、サムソンはUSA Today紙と提携して、「InfoLink」と呼ぶ機能でテレビ向けコンテンツ配信を行なうと発表した。シャープは液晶テレビAQUOS向けに「AQUOS Net」と呼ぶ機能を実装。テレビ上で動作するウィジェット(ミニアプリケーション)を楽しめるようにするという。また、2008年後半の製品化ということで具体的な内容は公表されなかったが、LG電子もテレビ向け映像配信・アプリケーションプレーヤー機能「Netflix」を発表している。

サムソンの「InfoLink」

サムソンの「InfoLink」。写真のように映像を邪魔しない形で情報を表示するモードのほか、記事全文を表示することもできる

LG電子の「Netflix」

LG電子の「Netflix」。どことなく、ソニーの「XMB」に似たデザイン。アプリケーションベンダーとの提携はこれからとのこと

 日本ではパナソニック、ソニー、東芝などが相乗りしてテレビポータル(株)に出資し、テレビ向けポータルサービス「アクトビラ」が提供されている。アクトビラ方式であれば、家電メーカー各社は独自にコンテンツを確保する手間が省けるし、消費者側からも“製品によって利用できないコンテンツがある”という事態は避けられる利点がある。一方の北米では、各社が独自にコンテンツベンダーと提携してコンテンツを確保しなくてはならないが、別の面から見ると競合他社に対する製品の差別化要因にもなる。

 テレビのネット対応機能が消費者に受け入れられ、製品の魅力を上げることになるかは疑問な点がある。PCに比べて手軽な一方で、コンテンツのバリエーションは限られるからだ。しかし、各社が今年一斉にテレビのネット対応に進み始めたことは、注目すべきトレンドと言えるのではなかろうか。


日本メーカーは環境保護をアピール

 大画面テレビ全体のトレンドというわけではないが、日本メーカーはテレビ分野における環境保護への取り組みをアピールする例が目立った。

 パナソニックは6日に開いた記者説明会で、シャープや東芝と共同でテレビのリサイクル事業を行なう企業「Electric Manufacturing Recycling Management社」(MRM)の設立を発表。米国でのリサイクル事業に乗り出すとしている。

共同でテレビのリサイクル事業を行なう会社を設立

パナソニック、シャープ、東芝は共同でテレビのリサイクル事業を行なう会社を設立した

 リサイクルだけでなく、製造段階での二酸化炭素排出量削減について言及した企業もあった。

シャープは工場での二酸化炭素排出量をアピール

シャープは工場での二酸化炭素排出量をアピール

 こうした環境保護への取り組みが、米国でのテレビ製品売り上げの向上につながるかどうかは疑問に思える。しかし、環境保護への積極的な取り組みをアピールしていくことは、長期的な企業価値・ブランド価値の向上につながるだろう。今後は日本以外の家電メーカーも追随してくるような状況になることを期待したい。

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