エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。
理解度をチェック !
第6回、第7回連載と契約タイプについて解説してきました。PMP試験は4択形式の問題ですので、契約タイプのすべてを挙げられる必要はありませんが、逆に、契約タイプのいずれかを示された場合には、特徴をイメージできるようにしておく必要があります。
今回は理解度を試す意味合いも含めて、PMP試験の例題に挑戦してみましょう。
それぞれの契約タイプの特徴を理解しているか
■例題1
CPFF契約の特徴はどれか。
A. 購入者はリスクを取る
B. 詳細なプロジェクトSOW(注1)が必要である
C. 定額契約より高い支払見積り額
D. 定額契約より安いコスト見積り額
(注1) SOW
SOWは、Statement of Work(作業範囲記述書)の略。プロジェクトSOWは購入者が発注に先立って、納入者や納入候補者に要望を伝えるためのドキュメント。
ヒント
CPFFは、コスト・プラス・固定フィー(fee)の略です。
▲解説
CPFFは実費償還契約の一種で、納入者利益が実コストに関わらず一定というものです。これを念頭に、選択肢を順番に見ていきましょう。
A:実費償還契約では、納入者には実コストと利益が保証される代わりに、購入者が金銭的リスクを負います。「取る」というのは、リスクを「排除する」ということではなく、「持つ」という意味です。
B:これは定額契約の条件です。詳細でないSOWであっても実費償還契約であれば契約に至ることができます。 正しくありません。
C:購入者があえて金銭的リスクの高い実費償還契約を選択する理由の1つは、定額契約よりも支払額が安く収まるであろうと予測されるからです。正しくありません。
D:契約段階で実費償還契約よりも定額契約が高くなるのは、リスク分が上乗せされることが一因です。本来、契約タイプとプロジェクトの正味のコスト見積りに関連はありません。これも正しくありません。
よって、答えはAの「購入者はリスクを取る」となります。
ここだけは押さえる!
定額契約では、詳細なプロジェクトSOWが必要。
FPIにおける納入者利益を求める
■例題2
以下のFPI契約において、実コストが$110,000の場合の納入者利益はいくらになるか。
予想コスト:$100,000
期待利益:$8,500
上限価格:$115,000
share ratio:70/30
A. $5,500
B. $3,000
C. $5,000
D. $1,500
ヒント
上限価格とは、納入者に支払われる限度額です。
▲解説
FPIは、定額契約に分類されるインセンティブ契約(上限の購入者支払総額を設定しておく)です。実コストが$110,000ですから、予想コストの$100,000を超過してしまいました。インセンティブ契約では、超過分を購入者と納入者の双方で負担しなければなりません。
share ratioが70/30ですから、納入者の超過分の負担額は、
($110,000-$100,000)×30/100=$3,000
となります。
これが期待利益から差引かれますから、納入者利益は
$8,500-$3,000=$5,500
となります。
しかし、実費償還契約に分類されるCPIF契約ならばここで終わるところですが、FPI契約であることを忘れないでください。念のため、購入者の支払額を計算してみましょう。
購入者の支払額は実コストに納入者利益を上乗せしたものになるので、
$110,000+$5,500=$115,500
そうです。これでは上限支払額$115,000を超えてしまうことになります。FPI契約においては、上限支払額までしか支払われません。
つまり、納入者利益は
$115,000-$110,000=$5,000
となり、答えはCとなります。
納入者にとって赤字にはなっていませんが、利益は配分比率から算出したものよりも、さらに減ることになってしまいました。
ちなみに問題文の実コストが$108,000となっていた場合は、納入者利益はいくらになるでしょう。
超過分は$8,000なので、納入者負担は
$8,000×30/100=$2,400
よって、納入者利益は
$8,500-$2,400=$6,100
となります。
購入者の支払額を確認すると、
$108,000+$6,100=$114,100
となり、上限支払額に収まっていますね。
ここだけは押さえる!
FPI契約で配分比率が使えるのは、上限支払額まで
いかがでしたか。契約タイプを使い分けることで、プロジェクトの成功の確率が高められることが理解できたでしょうか。
余談ですが、SI(システムインテグレーション)プロジェクトなどでは、要件定義や基本設計までの上流部分は実費償還契約で、詳細設計以降を定額契約でというように、プロジェクトの中で契約タイプを使い分けることは良くみられるケースです。これなどは、フェーズの性格に契約タイプをうまく適用した例といえるでしょう。
次回は、いよいよ最終回です。私がPMP試験対策に関して感じていることなどを述べたいと思います。
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