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エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。
IT業界でPMP取得者が増加している背景とは?
プロジェクトマネジメントの国際資格PMPの国内取得者数は昨年1年間でおよそ5,000人。国内の累計では1万8000人を数えるまでになりました。取得者の増加によって、資格がより広く知られるようになり、それがまた受験者を呼んでいるという結果を生んでいるようです。特にIT産業では組織全体で取得を推進している企業も多く、PMP資格取得者増加の大きな背景の一つになっています。
決して安いとはいえないコスト(目に見えるものだけで一人当たりの取得費用は20万円~40万円、その後の維持費用も年間最低6万円ほど)を掛けてでも企業が取得を推進している理由としては、2つ上げられます。
1つ目は、営業効果としての期待です。自社のPMP資格保有者の人数を公表することによって、プロジェクトマネジメントに対する意識が高い企業として印象づけ、営業活動を有利に展開しようとするものです。
2つ目は、組織内のプロジェクトマネジメント力の強化という、いわば本来的な理由です。育成の難しいプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーを、PMP資格制度を利用し、効率良く育てることが期待できるのです。つまり資格を学習させることにより、プロジェクトマネジメントスキルに必須となるPMP資格試験の「PMBOK」(図1)(注1)という基本な考え方を組織に浸透させる効果が狙えるのです。
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図1:PMBOKガイド第3版より引用 |
注1:PMBOK
PMBOKとは業界に依存しないプロジェクトマネジメントの知識体系(Project Management Body Of Knowledge)。このPMBOK概念を要約して1冊にまとめたものがPMP資格のためのPMBOKガイドである。PMBOKガイドはPMI(米国に本部を置くプロジェクトマネジメント協会)が発刊。現在の最新版は第3版。世界各国の言語に翻訳されている。 AMAZON PMI東京
できるエンジニアがPMP資格を取得する理由とは?
では、一人ひとりのエンジニアにとってPMP資格取得はどういう意味があるのでしょうか。
実務経験のあることが受験の必須条件となるPMP資格試験受験者からは、この資格について「実際の業務とは別」、「きれいごとばかりで使えない」という声が聞かれます。しかし、決してそうではありません。スタンダードなもの、つまりPMP資格のPMBOK概念を理解してこそ、現実という応用問題に対応できるようになれるからです。
また、PMPの学習を通じて、自分がやってきたことはPMBOK知識体系のどの部分にあたるのか。スキルで足りないところはどこかなのかを認識することができます。そしてプロジェクト本来のあるべき姿とともに、整理された引き出しを自分の中に作ることもできるのです。
たとえば、計画した開発プロセスが同じであっても、プロジェクトマネージャーに、このきちんとした引き出しがあるか無いかで大きな違いが生まれます。計画の中に省略したプロセス(プロジェクトの成功に役立つ望ましい活動)があったとしても、体系的な知識がなければ、省略にすら気づかないということにつながるからです。つまり、それは単なる漏れでしかありません。しかし、そのプロセスの目的や位置づけを知識の上でもしっかりと分かっていれば、省略によるリスクに対して事前の対応策を講じるなど、代替案を準備することができるようになります。
また、この知識による裏付けはそうした1つ1つの決断に論理的な整合性を与え、メンバーや顧客に納得感をもたらします。そしてこのことで、プロジェクトマネージャーには自信と勇気を与えてくれるでしょう。
まずは基本から。PMBOKガイドの勉強術
さて、PMP取得を目指すということは、前述のとおりPMBOKという概念をまず理解しなくてはなりません。そのためには公式ガイドブックであるPMBOKガイドを学習することに他なりません。
ところがこのガイド、読み物として面白味がないというのもあるのですが、ちょっと読みづらいのは否めないのです。業界横断的なものを目指すあまり、書いてあることは時に当たりまえのことのように思えたり、肝心な説明箇所が見出し程度に納まってしまっているからです。PMBOKガイドの汎用性とういう利点が、実務者にとってみれば逆に欠点に見えてしまうのも事実です。
でもここで「使えない!」などと投げてしまわないでください。私もPMBOKガイドを初めて手にしたときと、合格してからさまざまなプロジェクトを経験した今とは受け止め方にかなりの差があります。実務とのマッピングできれば、理解も深まり読み進めることも容易になるでしょう。
また、PMBOKガイドはとても控えめ表現で記述されたガイドブックとなります。「ねばならない」とか、「するべき」なんていう言い方はしていません(図2)。言い換えるならば、「さあプロジェクトマネジメントに必要なパーツは用意しましたよ。理解できたなら、後はこの中から、あなたが責任持って、プロジェクトに合うものを取捨選択し、強さを加減して使っていってください」というのがPMBOKガイドに流れている指針なのです。
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図2:PMBOK ガイド第3版より引用 |
注2:ステークホルダー(Stakeholder)
ステークホルダーとはプロジェクトの「利害関係者」を指す用語
それでは、いよいよ次回からこの基本のPMBOKガイドブックにプラスαで必要となってくる勉強部分に触れていきます。
- 今回のポイント
- ・PMP資格取得は、会社にとってはプロジェクトマネージャー育成に役立ち、個々のプロジェクト自体も強化できるメリットがある
- ・エンジニア個人のPMP資格取得の意義は、自分の足りないところを再認識でき、スキルアップを望める
- ・PMBOKガイドブックは、実は有効なガイドブックである

この連載の記事
- 最終回 最終回 合格への指針 得点源の確保と体系の理解
- 第7回 第7回 プロジェクトの契約タイプに関する例題を解いてみよう
- 第6回 第6回 納入者と購入者の利害を一致させるインセンティブ契約
- 第5回 第5回 契約を間違えば、プロジェクトはうまくいかない プロジェクトと契約の深い関係について学ぶ
- 第4回 第4回 プロジェクトの経済評価モデルに関する例題を解いてみよう
- 第3回 第3回 キャッシュの時間的価値を反映したプロジェクトの経済的評価方法
- 第2回 第2回 プロジェクトの経済的な価値を比較する問題を解く
- 公式ガイドブックだけでは不十分!? PMP資格試験対策
- この連載の一覧へ
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