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エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。
正味現在価値法と内部投資利益率法
前回は、経済評価モデルの手法の1つとして回収期間法を紹介しました。そして、キャッシュフローの時間的価値の違いを埋めるため、現在時点に修正する割引率についても説明しました。今回は、この割引率を使ったプロジェクトの経済的評価方法を、さらに2つ紹介します。1つは正味現在価値法(NPV法)で、もう1つが内部投資利益率法(IRR法)です。PMP試験における経済評価モデルの扱いの中でも重要な論点ですので、前回の回収期間法と対比して理解するようにしてください。
そのプロジェクトは利益を生みますか?:NPV法
正味現在価値法はまず、プロジェクト成果としてのキャッシュフローの現在価値合計を求めます。これからプロジェクトへの投資額を引いた額である「正味現在価値」(NPV:Net Present Value)がより大きいプロジェクトの採用する方法です。正味現在価値はプロジェクトが生むキャッシュ増加分の合計の現在価値ですから、これが大きいということは組織にとって投資効果が高いということなのです。
たとえば、割引率が10%の場合に2万ドル(注1)の投資が必要となるプロジェクトを考えてみましょう。
注1:ドル表記について
PMP試験で使用される通貨単位は、ドルとなります。
このプロジェクトの成果が、3年間にわたり各期末ごとに1万ドルのキャッシュフローを生むと予想される場合のNPVはいくらになるでしょうか。
1年後の1万ドルの現在価値……1万ドル/(1+0.1)
2年後の1万ドルの現在価値……1万ドル/(1+0.1)2
3年後の1万ドルの現在価値……1万ドル/(1+0.1)3
これを合計すると約2万4870ドルですから、ここから初期投資である2万ドルを引くと、NPV≒4870ドルとなります。この額の大きさがプロジェクトの経済的価値だということです。 もしも、このプロジェクトへの投資額が3万ドルと見積もられる場合にはNPVはマイナスとなってしまいます。これでは儲かるどころか、プロジェクトは実施しない方がマシということになります。
そのプロジェクトの利回りは?:IRR法
次に内部投資利益率法です。内部投資利益率法では、プロジェクトへの投資額とキャッシュフローの現在価値の合計が等しくなるような割引率を求めます。このときの割引率のことを内部投資利益率(IRR:Internal Rate of Return)と呼び、IRRがより高いプロジェクトを採用する方法です。
たとえば、投資額2万ドルのプロジェクトが2年後に1度だけ3万ドルのキャッシュフローを生むとします。
IRRをrで表すと、
2万ドル=3万ドル/(1+r)2
ですから、
r≒0.22=22%
となります。
言い換えれば、2万ドルを22%の年複利で運用し、2年後に3万ドルを手にするということです。手持ちの資金を少しでも利回りのよい金融商品に投資したいですよね。プロジェクトも同じで、利回りの良いプロジェクトが組織にとって魅力のある投資案件だということです。
IRR法もNPV法と同様に、キャッシュの時間的価値を考慮したものですが、NPV法では得られるキャッシュフローの規模が評価指標であるのに対して、IRR法では投資額に対する率が評価指標となります。
また、IRR法のもう1つの特徴は、計算が複雑になることです。上の計算例では単純化するためにキャシュフローの発生を1回としましたが、たとえばこれを3年間にわたり各期末ごとに1万ドルのキャッシュフローを生むと仮定し直すと、
2万ドル = 1万ドル/(1+r) +1万ドル/(1+r)2 +1万ドル/(1+r)3
となり、rの3次方程式を解くことになります。
NPV法が四則演算機能だけの電卓でも求められるのに比べると、その複雑さが分かるでしょう。ここでは、IRR法の概念とIRRの値がより大きなプロジェクトを採用するということだけ押さえておいてください
いかがでしょうか。組織にとってプロジェクトは単なるコストではなく、将来の資本(お金)を増加させるために現在の資本を投じる投資活動であり、そのリターンを追及するということが理解できたでしょうか。
余談ですが、現実の投資には必ず不確実性、すなわちリスクが伴います。概ねハイリターンはハイリスクです。プロジェクトの事前評価の際には経済的価値とともにこのリスクをどう評価するのかがとても重要となってきます。ただし、PMP試験で経済評価モデルが取上げられる場合には、リスクを考慮するところまでは問われないでしょう。
次回は、実際に経済評価モデルの例題に挑戦してみましょう。
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第2回連載および第3回連載のまとめ |

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