公式ガイドブックだけでは不十分!? PMP資格試験対策 第5回
第5回 契約を間違えば、プロジェクトはうまくいかない プロジェクトと契約の深い関係について学ぶ
2007年06月15日 00時00分更新
エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。
PMP資格試験における「契約タイプ」とは
「契約タイプ」は、PMBOKガイドの9つの知識エリアの1つ「プロジェクト調達マネジメント」で紹介されている論点です。前回までの経済評価モデルと同様、PMP資格試験の重要論点の1つです。
ところが、PMBOKガイドには、契約タイプの一部とそれぞれの定義が簡単に書かれているだけで、その効用、および使い分けについての解説は何もありません。しかし、PMP試験で問われるのはまさにその部分になってきますので、PMBOKガイドを補足するかたちで今回から3回にわたり解説をしていきます。
契約タイプは、プロジェクトの成功を左右する
プロジェクトが組織内だけですべてをまかなえる場合を除いて、プロジェクトの多くは達成に必要となる一部、ときには大部分を外部から調達しなければなりません。
このときプロジェクトは、「購入者」と「納入者」という2つの立場に分かれることになります。
プロジェクトを成功させるという大目的は同じであっても、そこには立場の違いによって利害関係が生じます。もし利害の向きが違えば、綱引きとなってしまい、プロジェクトマネジメントは難しいものになってしまうのです。これを避けるための道具が「契約」となります。
契約とは、本来お互いを拘束する法的な行為です。しかし、PMBOKガイドに述べられているのは、そのような法律上の規定ではありません。衝突を避け、できれば利害が同じ方向となるようにするための最初の方針、それが契約タイプの論点なのです。
はじめに支払額を決めましょう:定額契約
契約タイプは、大きく「定額契約」と「実費償還契約」の2つに分けられます。
まず、定額契約についてです。定額契約とは契約時に購入者が納入者に支払う総額を決めてしまうもので、「一括請負契約」とも呼ばれます。モノやサービスの納品によって、あらかじめ取り決めた金額を支払うという契約そのものは非常に分かりやすいと言えるでしょう。
しかし、そもそもプロジェクトは「段階的詳細化(注1)」です。契約時点ではプロジェクトの細かい部分まではっきり見通せないことが多く、この状況で金額を決めてしまうことは、納入者に対して大きな金銭的リスクを負わせることになります。もし、契約額以上のコストがかかった場合でもスコープ(注2)に変更がなければ、超過分は100%納入者が負担することになってしまうからです。
注1:段階的詳細化
PMBOKガイドに述べられているプロジェクトの特徴の1つ。当初は、不明確だったものがプロジェクトの進行にしたがって詳細化、具現化されていくこと。
注2:スコープ
プロジェクトの範囲。プロジェクト目標の最終成果物と中間成果物、およびそれらを生みだすために必要な行動も含む。
掛かった費用はすべて支払います:実費償還契約
一方、実費償還契約とは、契約時に総支払額を決めずに、掛かった費用(実費)を購入者がすべて支払う(償還)というものです。
総支払額は、プロジェクトの実コストに納入者の利益(フィー:Fee)を上乗せしたもので、プロジェクトが終わるまで確定しません。このため、金銭的リスクは購入者が負うことになるのです。
また、実費償還契約には利益の乗せ方の違いで、「CPFF」と「CPF(またはCPPC)」の2種類に分かれます。
CPFF(Cost Plus Fixed Fee)
CPFFは、実際のコストに「見積りコストに対する一定比率の納入者利益」を上乗せするものです。見積り値に対する比率なので、たとえ実コストが見積もりと違ったとしても納入者利益は一定です。
CPF(Cost Plus Fee)またはCPPC(Cost Plus Percentage of Cost)
CPFは、実際のコストに「実コストに対する一定比率の納入者利益」を上乗せするものです。実コストの多寡に応じて納入者利益も増減します。購入者にとってはCPFFよりもリスクの高い契約となります。
CPFFとCPF(CPPC)の納入者利益 |
定額契約と実費償還契約の使い分け方:定額契約の場合
では、どのようにしてこれらの定額契約と実費償還契約を使い分ければいいのでしょうか。
1つの基準になるのがスコープの明確さです。プロジェクトのスコープが明確なら、定額契約は購入者、納入者ともに安全となります。これが、スコープがあやふやな状態で定額契約を結んでしまうと、購入者はスコープを広げようとし、逆に納入者はスコープを絞ることで利益を最大化しようとするため、双方の利害が真っ向から衝突してしまいます。
加えて、納入者は金銭的リスクの軽減策として、リスク分を契約額に折り込みます。これにより、結果的に購入者は高めの支払額を契約することになる可能性もあるのです。
定額契約と実費償還契約の使い分け方:実費償還契約の場合
もう1つの基準は、予想される支払額です。契約時に定額契約よりも実費償還契約の方が安価になると予想される場合、購入者は実費償還契約を選択します。予想なので外れる(定額契約よりも高くつく)こともあり、これがまさに購入者が抱えるリスクとなります。 また、購入者にはプロジェクトの実行中にコストを精査できるだけのスキルが求められます。しかも精査自体にコストがかかってしまうと本末転倒ですから、これを負担なく行なえる仕組みが必要となります。
実費償還契約を選択するその他の理由としては、プロジェクトに極めて困難が予想される場合、またはプロジェクト目標の達成に非常に重きが置かれる場合です。言い換えれば「金に糸目はつけない」という判断を購入者が行なえるときは、実費償還契約で、チャレンジ精神のある納入者を募ることができます。加えて、納入者の最適な技術、最適な人的資源の投入を促すことによって成功の確率も高まるわけです。
いかがでしたか。定額契約か実費償還契約かによって、リスクが納入者と購入者のどちらか一方に移動することが理解できたでしょうか。ここでは、プロジェクトの置かれた状況で契約タイプを使い分けるということを押さえておいて下さい。
でも、どうでしょう。リスクが移動するだけでは、利害の一致にいたりませんよね。
実はPMBOKはこれを解決する方法も示唆しているのです。
次回は、利害を一致させるとはどういうことなのか、その方策について解説します。
- 今回のポイント
- ・定額契約は納入者が、実費償還契約は購入者がそれぞれリスクを負う
- ・実費償還契約には、CPFFとCPF(またはCPPC)の利益の乗せ方がある
- ・スコープが明確なときは、定額契約が購入者/納入者にとってともに安全
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