マイクロソフト(株)は14日、.NETベースのマルチメディアエクスペリエンスとRIA(Rich Interactive Application※)を提供するプラグイン『Microsoft Silverlight』(マイクロソフト シルバーライト)向けのコンテンツ開発に適した、プロフェッショナル・デザインスイート『Microsoft Expression Studio』を正式に発表した。
※Rich Interactive Application 一般的には“Rich Internet Application”の略とされるが、マイクロソフトではこう表現している
Expression Studioを構成するのは、動画の生成や画像作成を行なうインタラクティブデザインツール『Expression Blend』、ウェブサイトの開発を行なうウェブサイトデザインツール『Expression Web』、デジタル・メディアの管理を行なうデジタル資産管理ツール『Expression Media』、アプリケーションのユーザーインターフェースをデザインするベクターグラフィックデザインツール『Expression Design』の4製品だ。なお、今回、発表されたExpression Blendは、Silverlightが正式リリースされていないことから、現時点ではSilverlightに対応していない。Silverlightに対応した“Expression Blend 2”はサービスパックで対応したいとしている。
発売開始は7月13日。MSDNでの提供は本日から一週間前後で開始される。価格はExpression Studioの通常版が7万8540円、アップグレード版が4万5990円、アカデミック版が1万5540円となる。なお、アップグレードの対象にはウェブで無料公開している『Microsoft Visual Studio 2005 Express Edition』も含まれており、実質的にはすべてのユーザーがアップグレード版の購入が可能となる。各製品の単体提供も予定されており、それぞれExpression Blendが6万5940円、Expression Webが3万9690円、Expression Mediaが3万9690円となる。なお、Expression Designの単体販売はない。
やはり“競合他社”はアドビ システムズのAIR
Silverlight(コードネーム:WPF/E)は、Internet ExplorerやFirefox、さらにSafari(Mac OS X版)にも対応する“クロスブラウザー仕様”のプラグインで、米アドビ システムズ(Adobe Systems)社の提供するAdobe Flash Playerや、先日正式名称でのβバージョンが公開されたウェブアプリケーションプラットフォーム“Adobe AIR”(Adobe Integrated Runtime)の対抗と目される、次世代のコンテンツプラットフォームのひとつ。同社では現在、Silverlight 1.0β版ならびにSilverlight 1.1α版を提供しており、Silverlight 1.0の正式版は今夏にリリースされる。また、Silverlight 1.1ならびにモバイル・デバイス向けのSilverlight for Mobileは2007年度中から2008年にかけて提供されるとしている。
発表会の冒頭で、Expression StudioとSilverlightの説明を行なったマイクロソフト(株)のデベロッパービジネス本部業務 執行役員 本部長の市橋暢哉氏は、しきりに「先行他社」という言葉を用いて、照準がアドビの技術やアプリケーションであることを匂わせていた。また、動画のストリーミングについてもしきりに言及し、高品質で低コストなメディア配信が行なえるとしていた。
また市橋氏は、ASP.NET AJAX、Silverlight、WPFの3つのプラットフォームで、今までになかったようなユーザー体験をクロスプラットフォームで提供することを強調した。ユーザーインターフェースのデザインには、.NETフレームワーク でも使われているXAML(Extensible Application Markup Language)を使用することで、デザインと開発の分離を図っている。市橋氏は「Visual Studioも.NETフレームワークを使っていますので、これまでVisual Studioを勉強して来られた方にもお使いいただけます」とし、新たに取得しなければならない部分が少ないことも強調していた。
元アドビの春日井氏がSilverlightの威力をデモ!
市橋氏のプレゼンテーションに続いて、同デベロッパービジネス本部シニアプロダクトマネージャーの春日井良隆氏が、SilverlightのデモならびにSilverlightコンテンツの開発手順のデモを行なった。
最初に春日井氏がプレゼン画面に投影したのは、Mac OS Xのウェブブラウザー『Safari』で動作するSilverlightのコンテンツだった。春日井氏はマイクロソフトのトップページや“Fox Movies”(http://www.foxmovies.com/)での『ファンタスティック4』のトレーラーのストリーミング、ジグソーパズルの中で動画が動いているサイト、動画の上に透かしで情報を流す事例などを紹介し、動画ストリーミングでの強さを示した。
続いて、Expression Media Encoderで実際に動画を生成する手順を紹介した。Expression Media Encoderは、Windows Media 9ベースのVC-1コーデック対応ビデオ・エンコーダーで、720pの高精細画質の動画を劣化なしで圧縮できる。デモでは昨年公開された映画“ワイルドスピード×3 TOKYO DRIFT”の映像を使い、圧縮の確認が2フレームで同時に、それも動画で確認できることを強調していた。さらにユーザーインターフェースのデザインを行なうデモを、Expression Blend2のαバージョンで行なった。このユーザーインターフェースの部分にはXAMLのテンプレートが用意されているが、独自にデザインすることもできる。
ユーザー事例として登壇したのはNRIネットワークコミュニケーションズ(株)のウェブマーケティング事業部部長の松岡清一氏。松岡氏は同社が開発した“REMIX2007”のサイトを紹介するとともに、ジュニアサッカーのサポートサイト“ドリパク”を紹介した。
ドリパクではジュニアサッカーゲームの動画をストリーミング配信し、保護者など関係者が子どもたちのプレイする姿を鑑賞できるサービスを提供している。松岡氏は「現在、このサービスはFLV(Flash Video)を使用していますが、画角が小さく、お子さんの顔を確認するのにひと苦労です。ところがここにSilverlightを使うと、同じ配信コストでより高い画質で鑑賞でき、フル画面表示で楽しむこともできます。制作コスト、配信コストが下げられるのがSilverlightの利点です」と語っている。
Macプラットフォームへの対応はない
低コストで行なえる高画質なストリーミング配信など、アドビ陣営にはない利点もマイクロソフト陣営に多くあることは特筆すべき点だが、ポイントがどうしてもデザイン寄りではなく、開発者寄りになっている事実がある。これはアドビ製品が事実上のスタンダードとなっているデザイナーやクリエイターにとっては物足りなさを感じる部分と言える。
市橋氏はプレゼンテーションの中で、デザイナー向けポータルサイト“ロフトワーク”での調査や、定期的に行なわれているウェブデザイン関連のイベント“CSS Nite”の調査集計を引き合いに出し、Expression StudioやSilverlightへの関心の高さを示したが、いずれも実質的なクリエイティブ・ディレクションを行っているクリエイターの動向にリーチしているとは言い難しいと率直に感じた。
米Meta Creations社が開発した旧Expressionには、Mac OS X版も存在した経緯があったことから、市橋氏に現在クリエイティブ・ユーザの主流を占めるMacプラットフォームへの対応について訪ねたところ、「(将来的にはわからないが)Macプラットフォームへの対応の予定はありません」と語った。アドビやアップルとの親和性に言及せずに、マイクロソフトの技術だけで構築することが、どれほどクリエイターの同意を得られるだろうか? 次なる展開が楽しみだ。
