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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第214回

破産者マップ事件で浮かぶ、デジタル官報の難しさ

2023年01月16日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 破産した人の氏名や住所を地図上に表示するウェブサイトの運営者が告発された。

 個人情報保護委員会は2023年1月11日、「破産者マップ」の運営者を、個人情報保護法に違反するとして、警視庁に刑事告発した。

 1月13日の時点でも、このサイトは新しい「破産者マップ」として運営を続けている。Googleマップ上にプロットされたピンをクリックすると、破産者の氏名と住所が表示される。

 ビットコインで5万円を送金するとピンの内容が削除され、10万円を送金するとピンごと削除される仕組みだ。

 個人情報保護委員会はこうした仕組みについて、「不特定多数の者による当該個人に対する人格的・財産的差別が誘発されるおそれがあることが十分に予見できる」と判断した。

 裁判所が個人について破産手続の開始を決定すると、氏名と住所が官報に掲載される。

 河野太郎デジタル大臣は2022年12月20日の記者会見で「将来的には、紙の官報の廃止も考えていきたい」との方針を示しているが、今回の事件は、破産などの「要配慮情報」をデジタル上でどのように公開するのかについて、大きな問いを投げかけている。

破産情報はデジタル官報で閲覧できる

 破産を含む官報の情報は、国立印刷局が運営する「インターネット版官報」で閲覧できる。

 インターネット版官報は、直近30日は無料で閲覧でき、インターネット版官報には、破産手続開始決定や失踪宣告なども掲載されている。日本人への帰化が認められた外国人の住所・氏名も掲載される。

 30日より以前の官報を閲覧したい、あるいは情報を検索したいといった人には会員制の有料サービスも用意されている。

 直近30日分のインターネット版官報は、PDFのフォーマットで表示され、ダウンロードも可能だ。

 インターネット版官報は便利だが、反面、無料公開されている情報が存在するため、情報を自動で網羅的に取得し、Googleマップ上にプロットするシステムも成り立つ。

破産者マップ問題は長期化している

 旧「破産者マップ」は2018年12月に登場したが、SNSで批判が殺到し、個人情報保護委員会が行政指導したことで2019年3月には閉鎖された。

 その後も類似の情報を掲載するサイトが複数開設され、個人情報保護委員会は運営者に対してサイト運営の停止を命じている。

 今回刑事告発の対象になった現行の「破産者マップ」は、2022年7月から破産者情報を公開している。

 個人情報保護委員会は、新しい「破産者マップ」に対しても報告を求め、サイト運営を停止するよう求めたが、運営者は特定できていない模様だ。

 マンガの海賊版サイト問題などで、いつも名前が出てくるが、現行の破産者マップも、運営者の情報を非公開にできるクラウドフレア社のサービスを利用している。

 さらに、現行の破産者マップについては「このウェブサイトの運営は海外で行われており、現地の法律が適用されます」との記載もある。

 過去に、行政機関からの指摘で閉鎖したケースなどを知ったうえ、周到に対策を施して運営されているのが、現行の破産者マップであるのだろう。

 行政機関による「指導」や「命令」だけではサイトの閉鎖に至らず、捜索などの強制力を持つ捜査機関に対応が委ねられたというのが、今回の刑事告発の意味だろう。

技術的な対策の必要性

 一連の破産者マップ問題をあらためて見直すと、やはり、インターネット版官報を使った公告のあり方に課題があるように思えてくる。

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