この連載は江渡浩一郎、落合陽一、きゅんくん、坂巻匡彦が週替わりでそれぞれの領域について語っていく。今回は落合陽一が、茨城県北芸術祭に出展中の作品を紹介する。
今回お話しする茨城県北芸術祭は、茨城県北6市町の豊かな自然を舞台に、アートと科学・技術の実験を通して、新たな創造の息吹を吹き込む芸術祭。9月17日~11月20日まで開催され、国内外で活躍するアーティストが参加しています。
10月15日にメンテナンス中の作品の再オープンと建築家の妹島和世さんとのコラボレーション展示のオープンがありまして、県北芸術祭の作品が出揃いました。
展示で見られる落合の全5作品を紹介していこうと思います。
シャボンの膜をスクリーンにする「コロイドディスプレイ」(2012/2016)
物質と映像の間にあるクロストークを考えるための界面、シャボン膜の表面反射を超音波を用いて制御することでスクリーンに変える作品です。修士時代にBRDF(双方向反射率分布関数。光の反射モデルのひとつ)の反射研究の一環として作った、モルフォ蝶の輝きが超音波の出力によって切り替わり、物質的な振る舞いをする映像を鑑賞できます。ものすごく簡単に言うと、シャボンの膜を超音波を用いてスクリーン化し、映像を投影して鑑賞する作品です。
一気に6台展示するのは初めてで、廃校に差し込む日差し、窓ガラスの向こうに見える県北の山々がコントラストになっており、日差しの加減によって見えなかったり、液の状態によって淀んだりもします。そういった移り変わりの中で物質的な映像が煌めいていくのをゆったり眺めるのが醍醐味です。
テクニカルな作品とアナログな環境が作る調和をお楽しみください。たまに器具の配置関係がずらされたり折れたりして、壊れているときは教えてください。
学校にいたときの音を再現「幽体の囁きⅠ」(2016)
落合の経営するピクシーダストテクノロジー社の超音波スピーカーを用いて空中に音源を作り出し、廃校になる前の空間で音に包まれたような感覚になる作品です。
目をつむってスピーカーの上に顔を出してみてください。空間を包む喧騒が戻ってきます。県北芸術祭のために制作した新作で、廃校の気配感を音響メディアを用いて再配置したことによって独特のノスタルジアを作り出していると思います。
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