ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第876回
このままではメモリーが燃える! HBM4/5世代に向けた電力供給の限界と、Samsungが示すパッケージ協調設計の解
2026年05月18日 12時00分更新
物理構造の抜本的対策
TSVの増量と埋め込みキャパシターの導入
さて、1つずつ問題を解決していこう。まずは配線抵抗に起因する電圧降下(や発熱)の削減である。従来のDRAMの場合、そもそも構造がシンプルであるから抵抗そのものが少ないし、抵抗値の解析も従来型の技法で簡単に実行できる。
ところがHBMの場合、ベースダイの上にDRAMダイが複数搭載され、しかもそれがTSVで接続されているうえに、パッケージとはインターポーザー経由で接続されているという非常に複雑な構造になっており、解析が非常に複雑である。
それはともかくとしてHBMで抵抗を下げるにはどうすればいいか? 要は電源ラインを中央のTSVエリアだけでなく、その周囲にも電源ラインを置けばいい。結果としてTSVの数はどんどんうなぎ登りに増えていくわけだ。
中央のTSVエリアだけでなく、その周囲にも電源ラインを設ければ抵抗を下げられる。こういうと簡単だが、実際には中央部以外にもTSVを設けて、そこで電源を供給するので、そうでなくても高いHBMの製造コストがさらに上がることになる
関係ないが、右のグラフにしれっとHBM5の文字があるのもおそろしい。もうそこに向けての開発が始まっているわけだ。実際にTSVの数を増やすとどうなるのか? というのが下の画像だ。Power Integrityが大幅に改善するし、1本の電源配線あたりに流れる電流量が相対的に減る分、発熱も明確に減っているのがわかる。
「やる価値がある!(But it's worth it!)」とあるが、確かにコストは上がっても電力損失を大幅に減らせるのだから、そう言いたくなる気持ちはわかる。ただこれ、解析はすごく大変になりそうである。
次がDecoupling Capacitor、要するにバイパスコンデンサー(以下、パスコン)である。通常のDRAMの場合、あまりパスコンは必要ない。というのはDRAMセルそのものがコンデンサーだからだ。もちろんDDRやGDDRなどでは電源ライン周りにパスコンが必要になるため、パッケージを見るとそれなりにパスコンが配されているのがわかるが、それほど多くはない。
ではHBMは? というとこれが大問題で、DRAMのダイに関してはパスコンがなくても問題はないのだが、ベースダイはロジックなので、ここのそばにパスコンをどうしても置きたい。ところが、物理的に搭載する場所がないのが問題である。
DRAMダイをパスコン代わりに、というのも考えられなくもないのだが、TSV経由になるため隣接しているといっても少し距離がある。そしてシリコンインターポーザーの上にはパスコンを配せないので、どうしてもパッケージ基板上になり、ベースダイのそばに置けないというのが問題である。
しかし、信号速度が上がるとどうしてもパスコンなしでは特性が悪化する。先にIR Drop対策として電源用の配線(TSV)を増やすという話をしたが、これも効果はあるが十分ではないとする。
信号速度が上がるとパスコンなしでは特性が悪化する。右下はおそらくSpiceかなにかを利用したシミュレーションでのものと思われる。緑がダイ上にパスコンを配した状態、赤がなしの状態で、1GHzを超えたあたりから特性が大きく変化し始めるのがわかる
1つのアイディアがベースダイ、つまりロジック回路のダイの中にキャパシターを埋め込む方法だ。これは特に周波数が高いところで効果がある。下の画像を見ると、オリジナルの灰色に比べ、キャパシター埋め込みの青色のグラフは明確にインピーダンスが減っている。
もう1つのアイディアが、シリコンインターポーザーの中にISC(Integrated Stack Capacitor)、つまり埋め込みコンデンサーを仕込むという方式だ。下の画像はシリコンインターポーザーに複数個のISCを埋め込んで、その際に特性がどう変わるかをシミュレーションしたグラフだ。
左側は電圧の収束がMIMCAPが多いほど早い(し、収束後の電圧変動も小さい)ことが示されている。右は周波数とインピーダンスの関係を示したもので、ISCを利用することで高周波域におけるインピーダンスが大きく下がる。つまり、普通にCoWoSなどを使っただけではダメで、ISCを埋め込んでいるような高価格なインターポーザーが必要になる。
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