【JSTnews1月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)/研究課題「脳機能向上を生む全脳アストロサイトカタログ」
脳内の隙間細胞による、記憶を選んで残すメカニズム解明へ
2026年01月20日 12時00分更新
私たちの日々の多くの体験は、その全てが記憶として残るわけではありません。これまでに「エングラム神経細胞」と呼ばれる神経細胞群が全ての経験の物理化学的な痕跡を記憶として一時的に残すことがわかってきました。ただし、一部の記憶を定着させる仕組みは十分には解明されていません。
理化学研究所脳神経科学研究センターの長井淳チームディレクターらの研究グループは、アストロサイトという脳に存在する神経細胞以外の隙間細胞の一種で、体験に応答して数分から数時間かけてFosと呼ばれる遺伝子が発現する様子を可視化・解析できる技術を開発。マウスに特定の場所で静電気ショックを与えた時(初回の体験)および数日後に再びその場所で体験を思い出す時(再体験)のFosの発現を調べました。その結果、Fosを発現するアストロサイトの集団は、エングラム神経細胞が存在する領域で再体験時にだけ数多く見つかりました。さらに、初回の体験後、アストロサイトは数時間から数日にかけて神経伝達物質「ノルアドレナリン」への応答機構を強め、再体験時にFosを発現させることがわかりました。Fos発現後の機構を撹乱(かくらん)すると、エングラム神経細胞の働き、記憶の安定性および正確性に影響することから、Fos発現という「スイッチ」は、強い情動を伴って繰り返される体験の記憶を定着させる機能があることが明らかになりました。
情動と記憶の結び付きは、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)など多くの精神疾患と関係があるとされています。今回の研究成果は、記憶を和らげたり、選んで残したりする治療に応用できる可能性があります。

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