コストの壁を超えろ ディープテックを社会に届ける5つの戦略
ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:株式会社インターホールディングス 代表取締役 成井五久実氏
ディープテックの社会実装には、技術だけでなく「売れる仕組み」を整えるビジネスサイドの構築が欠かせない。ASCII START TechDay 2025では、人材をテーマにしたセッション「ディープテック・スタートアップに必要なビジネスサイドの構築〜創業経営者、人材流動化はできるか?~」を実施する。登壇者の一人、株式会社インターホールディングスの成井五久実氏に、自社の真空技術を例に、知財譲渡から社会実装に至るまでの実践知を聞いた。
――まず、インターホールディングスの事業内容を教えてください。
当社は「環境価値と経済価値が両立する社会をつくる」をビジョンに、ディープテックの社会実装をテーマにしています。現在は真空技術を軸に、フードロス削減や温室効果ガス(GHG)削減に挑戦しています。
ただし、私たちは“真空の会社”ではありません。価値ある埋もれた技術を社会に実装することがミッションであり、真空事業はその第一弾です。
――真空技術の社会実装、具体的にはどんなサービスなのでしょう?
地球上最高値といわれる99.5%の真空を、電気を使わずに作れるのが特徴です。逆止弁だけで手動で真空状態を維持できるため、繰り返し使えます。例えばワインボトルを詰め替えて保存する「Vie-de Vin」はヨドバシカメラなどで展開しています。そのほか、BtoBでは飲食店向けや防災備蓄向けにも展開しています。最近は日本酒の酸化防止に注目していて、瓶から真空パウチへ置き換えることで軽量化・CO₂削減も期待できます。
――真空技術については、知財譲渡の経緯がユニークですよね。
はい。弊社CTOが発明家の萩原忠先生とご縁がありまして。先生は90歳を超えておられ、「このまま特許が消えるのはもったいない」と。そこで、我々が事業化を引き継ぎました。大学発ベンチャーが注目されていますが、地方の中小企業にも眠った技術は多い。そうした“埋もれた知財”を発掘・継承していくことが私たちの役割です。
――先生方にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。
もちろんです。研究者はスペシャリストなので、研究には集中したいけれど売り方がわからない。マーケティングや戦略の部分で我々が支援し、社会に広げる。そういう補完関係を築けるのが理想ですね。
――事業化に向けた戦略の柱について教えてください。
私たちは、社会実装を進めるうえで「5つの柱」を軸にしています。まず、どんなに良い技術でも、勝てる市場を見極められなければ意味がない。ですから、最初にマーケティングと営業の戦略を立てます。2つ目は、パートナーシップ。これは本当に重要で、例えば真空サーバーでは日立さんと協業しています。大企業との連携によって信頼性もスピードも格段に上がるんです。3つ目は、知財やブランディングを含めたノウハウをしっかり体系化していくこと。4つ目は、専門人材を集めるタレントプールの仕組みをつくること。最後に、ファイナンスです。資金調達の設計が甘いと、せっかくの技術が途中で止まってしまう。これら5つを総合的に組み合わせて体系化し、今後は他の技術にも横展開していきたいと考えています。
――フードテックや知財活用の今後の展開は?
国内では農林水産省の知財データベースに登録されている技術(約300~400件)を活用し、社会実装をプロデュースしていきたい。海外では、すでにインド企業へ真空パックのライセンスアウトを行い、現地で販売も始まっています。日本発の技術を、世界で展開していくフェーズに入っています。
――ディープテック×大企業の連携で感じる課題は?
ディープテックは、いい技術でも「コストの壁」にぶつかります。大企業にテスト導入してもらう段階でコストが4〜5倍かかることもあり、どうしても採算が合いません。だからこそ、助成金やアクセラレーションなど、導入を後押しする仕組みが必要だと感じます。
――最後に、セッションに向けてメッセージをお願いします。
ディープテックの社会実装には、ビジネスサイドの力が欠かせません。資金・人材・パートナーの流動性を高めることで、埋もれた技術が社会で輝ける。そうした現実的なアプローチを、セッションでは本音でお話ししたいです。

成井 五久実氏(ナルイ・イクミ)氏
福島県出身。東京女子大学心理学部卒業後、DeNAに新卒入社。その後トレンダーズにてPR・マーケティングを担当した後、28歳でメディア事業を営む株式会社JIONを創業。設立1年でベクトルに事業売却しベクトルグループ傘下のスマートメディア社長を務める。2022年よりインターホールディングスの代表取締役に就任。世界のフードロスとCO₂排出削減に挑むクライメイトスタートアップを運営している。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。
2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、14時45分開始セッション「ディープテック・スタートアップに必要なビジネスサイドの構築 〜創業経営者、人材流動化はできるか?~」にて、インターホールディングスの成井五久実一氏には特許、発明をビジネス化に導いたアントレプレナーの立場からディープテックのビジネス化についてお話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。
「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要
▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)
【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
【入場方法】事前登録制(入場無料)
18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/
※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)
































