海に囲まれたニッポン。海水が“燃料”になる技術が動き出している
資源なし国ニッポン、でも海がある
「日本は資源がない」とは、子供のころから何度も聞かされてきた話だ。石油も天然ガスも輸入頼みで、エネルギー自給率はわずか一割程度。太陽光パネルや風力発電所を並べる土地すら限られている。
でも、日本には“海”があった。もしその海水が燃料に変わるとしたら、エネルギーの未来は変わるかもしれない。
海水から水素を生む「中性海水電解セル」
そんな“夢みたいな話”に挑んでいるのが、東京大学・髙鍋研究室発スタートアップの株式会社pHydrogenだ。
同社が開発しているのは「中性海水電解セル」と呼ばれる装置。従来、海水から水素を取り出そうとすると、副産物として塩素ガスが発生してしまい、安全面やコスト面で実用化の壁が厚かった。pHydrogenの技術はその課題をクリアし、鉄など安価な金属を使って海水から効率的にグリーン水素を生み出せるのが特徴だ。
発電所から産業利用、自動車まで
水素燃料は用途も幅広い。例えば発電所。石炭や天然ガスを燃やすと大量のCO2が出るが、そこに水素を一緒に燃やすことで排出量を減らす試みが進んでいる。こうした「水素混合発電」はすでに実証が始まっていて、将来は火力発電の脱炭素化に欠かせない技術とされている。製鉄や化学産業など、高温を必要とする現場でも代替燃料として期待されている。そしてもちろん、自動車の世界でも重要な存在だ。
ガソリンや電気とは違う強みを持つのがFCV(燃料電池車)。充電に時間がかかるEVに比べ、FCVは短時間でエネルギーを補給できるため、長距離トラックやバスなど商用車に向いている。もし海水由来の水素が安く安定的に供給できるようになれば、物流や公共交通の脱炭素化に一気に弾みがつく。
輸入頼みから、海辺で発電へ
資源がないと言われ続けてきた日本。けれど、海水を“燃料”に変える技術が広がれば、この国はエネルギーの新しい切り札を手にすることができる。海に囲まれた日本だからこそ、沿岸部で水素を作ってその場で使う“オンサイト発電”も現実的だ。輸送にかかるコストやリスクも少なく、世界情勢で燃料価格が乱高下することにおびえなくて済む未来がやってくるかもしれない。




































