【JSTnews8月号掲載】NEWS&TOPICS 戦略的創造研究推進事業ACT-X/研究領域「トランススケールな理解で切り拓く革新的マテリアル」/研究課題「有機ナノ柔粘性結晶の創成と動的機能の創発」
高性能メモリー開発への応用が期待される現象を東北大学が発見
2025年08月15日 12時00分更新
情報を記憶する素子であるメモリーには強誘電体と呼ばれる物質が使われています。強誘電体は外部電場がなくても物質内でプラスとマイナスの電荷の偏りが生じる分極と呼ばれる性質を持ち、かつ外部電場によってその分極の向きを反転できます。分極の向きによって「0」あるいは「1」という情報を記憶する仕組みです。
東北大学の出倉駿助教らの研究チームは「柔粘性結晶」と呼ばれる、固体のように形を保ちながら内部の分子が液体のように回転する物質において、外部電場を加えることで分子の向きや形状が変化し、その状態を保持できる現象を発見しました。同チームは今回、入手しやすく単純な構造を持つ有機分子「スクシノニトリル」の柔粘性結晶相に着目。外部電場を加えた時の電気的な応答を精密に測定し、電場強度の変化の履歴によって分極の大きさが異なるヒステリシスと呼ばれる現象を観測しました。同現象の変化の様子が通常の強誘電体とは異なる特異な性質を示すことから、その起源について詳しく調べ、分子が持つ向きと形状という2つの異なる自由度が関与していることを解明。同分子が、細長い形の一部が折れ曲がったゴーシュ型と、まっすぐ伸びたトランス型の2つの形状をとり、外部電場を加えると、分子の向きがそろうだけでなく、分子の形状も変化することを突き止めました。
これにより、分子の向きと形状をそれぞれスイッチすることで、従来の「0」「1」の値をとる2値メモリーよりも多くの情報を記憶できる多値メモリーの実現につながります。また、情報記録デバイスの大幅な高密度化や省エネルギー化が期待できます。

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