「儲けなくてもいい」じゃダメ?インパクト投資のリアルな葛藤
インパクトとリターンを両立させる投資のかたちを探る

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「社会にいいことをしながら、ちゃんと儲けも出す」
そんな“両取り”を狙う動きとして注目されているのが「インパクト投資」だ。
これは、利益を得るだけでなく、環境や地域社会に良い影響を与えることも目的にした投資のこと。単なる寄付やCSRとは違い、「測定できる成果」を求めるのが特徴だ。最近では、日本国内でも金融機関やベンチャーキャピタルがこの考え方を取り入れ始めている。
成果が出たら報酬が出る仕組みもある
インパクト投資の代表例としてよく取り上げられるのが「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」という仕組みだ。
例えば、「子どもの貧困を減らす」などの社会課題に対して、民間が先にお金を出し、取り組みの成果が出たら行政が報酬を支払うという流れ。成果連動型の契約という点で、税金の無駄を減らせる可能性があるとして注目されている。
ただし、この仕組みを使った企業の株価が大きく動いたかというと、そうでもない。短期的には好意的に受け止められるが、長く続くわけではないという調査結果もある。
評判のため? 本気の投資?
企業にとって、インパクト投資は「社会にいいことをしている会社」としての評判づくりにもつながる。しかし、取り組みの規模が小さいと、投資家からは「自己満足では?」と思われてしまうリスクもある。
「やってます感」を出すためだけの投資では、あまり意味がない。せっかくなら、本気で社会課題の解決に向き合いたい。
国によって“力の入れどころ”が違う
海外では、国によってインパクト投資の中身も違ってくる。
例えば、オーストラリアでは、スマートシティや再生可能エネルギーといった「将来有望で収益性のある分野」が人気だ。一方イタリアでは、利益が出にくいけれど放っておけない社会的な分野に重点が置かれている。両者を比較した研究では、「再生可能エネルギーのような政府の優遇措置がある分野では放っておいても資金が集まることから、インパクト投資ファンドは避けるべき」という主張がなされている。
この違いは、「利益と社会貢献のバランスをどう考えるか」の文化の違いとも言える。
企業ができる“自分ごと”の関わり方
日本企業でも「うちに何ができるだろう?」と考える会社が増えている。単にお金を出すだけでなく、自社の強みを活かして、ベンチャー・スタートアップ企業や地域団体と連携するのもひとつの方法だ。
例えば、建設会社が空き家再生のプロジェクトに協力したり、製造業が環境にやさしい部品の開発支援をしたりする。そんな「うちだからできる貢献」が、実は一番強いインパクトになるのかもしれない。
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