「初日300アクセス」から月間33億PVへ──魔法のiらんど爆発的成長の裏側
モバイル黎明期に女子中高生を虜にした"奇跡のサービス"はどう生まれたか──谷井玲氏インタビュー
2025年07月22日 09時00分更新
社長自ら、新機能を、1週間に、2、3個のペースで追加していく
谷井 iモードはスタートから10カ月くらい経っていましたが、まだなかなか普及してなかったんですね。そんな中でスタートしたのですが、初日のアクセスは300だったのが、1週間後には1日40万PVに急増したんですよ。その後も成長は続いて、3ヶ月後には120万PV、最終的には月間33億PVという数字にまで成長していきました。
―― ホームページと掲示板機能だけでそんな凄い数字に!?
谷井 いえいえ、掲示板だけではありませんでしたね。全然それだけじゃなくて新機能を怒涛のように追加していったんですよ。
―― 怒涛のごとく。
谷井 新機能は、1週間に、2、3個のペースで追加していきました。新機能を追加するとPVがグッと増える。少し慣れてくるとまたちょっと下がる。アクセス数は波があるんですけど、120万PVまで行った時は本当に面白くて楽しかったですよ。作ったものをポンと出すと誰かが見てて、どんどん広がっていったんですね。
―― なるほど。ライバルはあったのですか?
谷井 似たようなサービスは、2、3個ありましたね。サービス開始から1週間ほどで調べたんですが、我々のようにマルチプラットフォーム対応という意味ではなくて、iモードでブログのようなものを作れるサービスです。あの白黒の8文字✕6行の小さな画面で表示するものなわけですが。
―― その中で勝ち抜いた理由は何だったのですか? 技術的な要因でしょうか?
谷井 技術的な部分もありました。当時のiモードは、ページ間の移動がスムーズではなかったんですよ。1ページ目から2ページ目へ移るたびに切れてしまうんです。今のようにページがシームレスにつながっていく仕組みではなかったんですね。
そこで私たちは、裏側にスクラッチパッドエリアという特別な領域を設けて、ページ間をスムーズにつなげる仕組みを開発したんです。これが他のサービスにはない大きな特徴でしたね。ユーザーにとって使い勝手がとてもよいものになった。
―― iモードの初期そうでしたか。
谷井 このグラフをご覧いただきますと、1月2日から約1年間の推移がわかりますね。縦軸は1日のヒット数、つまりトラフィック数を示しています。折れ線グラフが4本ありまして、一番下がJフォンのスカイウェブ、その上がauのWAP、さらに上がiモード、そして一番上が全体のトータルとなっています。
新しいサービスを投入するたびに上下するアクセス数を見ながら、タイミングを見計らって次の新機能を投入していきました。「こんなの出たよ」「あんなの出たよ」と、次々と新しいものを出していって、このグラフをどんどん伸ばしていったんです。
―― ユーザーもそれを楽しんでいたかもしれませんね。
谷井 そうそう。1月26日にはサーバーの増設が必要になったんですよ。CPUの使用率が100%で限界に達していましたからね。増設後はアクセス数がグッと伸びてます。
その後も新機能を次々と投入していきました。3月4日には日記のプリント機能を追加したり、2月26日にはピカピカシートの販売やオークションサービスを始めたりと、大きなイベントを打ち出していきました。
2月1日には九州ウォーカーとのコラボレーションもスタートしましたね。当時、東京ウォーカーなど角川さんの雑誌でiモードのホームページの作り方を紹介する特集が数多く組まれていました。そこで紹介されたホームページの多くが、実は、魔法のiらんどで作られたものだったんです。これも急激なトラフィック増加の要因の1つでした。
魔法のiらんどでのホームページ作成の例(『月刊アスキー』2000年11月号より)。記事によると「操作は画面のメニューを選ぶだけなので簡単だ。iモードページって、あんまり凝ったページは作れないだろうなあ……と思っていたのだが、実はそうでもない」とある。JavaScriptやFlashは、この記事の時点では開始されていないが、CGIは使えた。
―― iモードのホームページというもの自体がトレンドだった。
谷井 たとえば、遠藤さんが魔法のiらんどを見つけてホームページを作ってみたとしますよね。そうすると、自分で作っただけでは面白くないので、誰かに教えたくなるんですよ。そこで私たちは「友達に教える機能」を実装したんです。10人までメアドを入れてお知らせできる。ただし、遠藤さんが教えるんじゃなくて「あいぴ」っていうキャラクターがあたかも友だちのような感じで教えるんです。これがものすごくね。10人に「遠藤さんがホームページを作りました」と送られる。それを、友達が見たら。私も作ろうとなって、どんどん広がっていったんです。
―― それすごいですね。自分で宣伝するよりいいですね。
谷井 2月3日に「エキスプレス」というおもしろい機能を導入したんですよ。これは、ユーザーが自分の最寄り駅を登録すると、その駅周辺のホームページが一覧できる機能でしたね。たとえば「立川」で検索すると国立駅周辺のホームページが表示されて、そこに電車の駅の伝言板のような掲示板も設置されていました。
2月10日にはカラー対応を実現しました。それまでグレーだった画面がカラフルになって、サービスの見た目が大きく変わりました。そして2月19日には「魔法のiらんどの遊歩道」という機能を追加し、3月10日には後に『恋空』などの人気作品が投稿されることになる「ブックオブジェクト」です。ただ、『恋空』が出たのは2006年なんですよ。この時はまだ2000年ですから、実は、それから6年もあとのことなんです。
―― そうだったんですね。
谷井 『恋空』や魔法のiらんどがいきなり成功したように思われている方もいますが、実際は努力を重ねて、ほとんど寝ないで開発を続けていたんです。「ブック機能」や「スーパーGM機能」、「料理機能」など次々と新機能を追加していきました。
おもしろいのは、料理機能ですね。自分の冷蔵庫の中身を登録すると、作れる料理を提案してくれる機能でした。今のクックパッドのような機能ですが、当時はクックパッドも存在していません。今思えば、その機能だけに特化していれば良かったのかもしれません。
その後も4月にかけて、「投票機能」や「ブックマーク機能」など、次々と新しい機能を追加していきました。ブックマーク機能によって、ユーザーは自分の携帯の中に好きなページを文字どおりブックマークできるようになりました。
iモードページを作成するサービス一覧(『月刊アスキー』2000年11月号より)。表の中では1つの例に見えるが、記事では「魔法のiらんど」がこの種のサービスで代表的とある。インタビューにもあったように「掲示板や私書箱、日記や小遣い帳を作成するツールが用意されるなど、機能が非常に豊富な点が人気を呼んでいる」と説明されている。
ケータイ小説:携帯電話で読むことを前提に書かれた小説。横書きで短い文章が特徴。『恋空』などが社会現象となった。
ブックオブジェクト:魔法のiらんどで提供された小説投稿機能。ユーザーが小説を書いて投稿でき、読者同士でコメントを交換できた。
スクラッチパッドエリア:Web上で一時的なデータやコードを保持できる機能のエリア。ブラウザ上で手軽に利用でき、魔法のiらんどではページ間をスムーズにつなげるために活用した。









