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座組はできた。でも決められない──共創を動かす“新しいリーダーシップ”とは

カギは「設計と調整」。オーケストレーション型マネジメントの実践知

連載
羽山友治の【新規事業が動く思考スイッチ】

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。

「全員が主役」でも誰かが仕切らないと動かない

 オープンイノベーションや地域連携、産官学の共創――こうした取り組みでは、関係者が増えれば増えるほど、「誰が回すのか?」が曖昧になっていく。そんな共創の現場に必要なのが、「オーケストレーション」という考え方だ。公式な権限ではなく、関係性と構想力で場を動かす──いま求められる新しいリーダーシップの形に迫る。

エコシステムとオーケストレーションの基本

 エコシステムとは、多様なアクターが緩やかにつながりながら、単独では生み出せない価値を共創する仕組みである。参加者はそれぞれ独立しており、指揮命令系統もない。そこで求められるのが、公式の権限ではなく、関係性と構想力によって場を動かす“オーケストレーター”の存在である。

 オーケストレーションには主に以下のような類型がある。

  • シングル型:1社が主導し、全体の構想と実行を担う(大企業主導型に多い)

  • ダブル型:主導役がビジョンを示し、実装は他社と分担する(例えば、ベンチャー・スタートアップ企業や大学など)

  • マルチ型:複数の関係者が協調して全体を形づくる(地域プロジェクトなど)

 また、運営の手法としては、「支配的(トップダウン)」「合意型(ボトムアップ)」「ハイブリッド型」の3種類に分けられる。

実務でのヒント:オーケストレーターになるには?

 オーケストレーターに求められるのは、単なる“仕切り役”ではない。複数の関係者が持つ異なる価値観や期待を理解し、それらを橋渡ししながら、共通の方向性にまとめていくことが求められる。以下のような実践が有効である。

  • 戦略的設計:共通の価値提案を明確にし、エコシステムの方向性を示す

  • 関係性の構築:パートナーの補完性を理解し、信頼と共感を醸成

  • リソースの統合:知識・人材・資金などの分散リソースを束ねる

  • 技術活用:デジタルツールで意思決定や情報共有の効率化を図る

  • 文化の育成:失敗を許容し、挑戦を後押しする空気をつくる

 重要なのは、組織の大小に関わらず、誰でもこの役割を担えるということだ。中小ベンチャー企業であっても、自社の立場から地域や業界をつなぐ「場の設計者」になることは可能だ。

エコシステムで求められるリーダーシップの本質

 エコシステムにおけるリーダーシップとは、命令ではなく“巻き込み”である。複数の関係者が関わるプロジェクトにおいては、誰かがオーケストレーションの役割を担わなければ、空中分解しかねない。もしあなたのプロジェクトが「人はいるけど進まない」と感じるなら、次に考えるべきは「誰がどう場をつくるか」ではないだろうか。


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