クラウドファンディングは新規事業の“試金石”になる
「広報ツール」で終わらせない活用のすすめ

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「先行予約だけじゃない」大企業も注目するクラファン活用
クラウドファンディングと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。「日本発のガジェットが話題に」「ベンチャー・スタートアップ企業が製品の先行予約を集めていた」──そんな光景は、すでに一般的になったかもしれない。
だが、世界に目を向けてみると、クラウドファンディングはもっと多様な形で、新規事業の立ち上げに使われている。実は今、大企業でもこの仕組みを「マーケティング」や「資金調達」を超えた事業開発の道具として活用できる時代がきている。
世界では「資金調達の選択肢」として確立されている
クラウドファンディングは大きく3つに分けられる:
・報酬型:商品の先行販売や特典を通じて資金を集める(例:Kickstarter、Makuake)
・株式型:株式と引き換えに出資を募る(例:AngelList)
・融資型:個人から小口融資を受ける(例:LendingClub)
国内では報酬型が主流だが、海外では株式型や融資型も普及しており、ベンチャー企業の“当たり前の資金源”になりつつある。特に米国では法整備が進み、ベンチャー企業の成長インフラの一部として定着している。
報酬型は「広報」で終わらせない
日本の大企業では、クラウドファンディングを「PR目的」と捉えているケースが多い。だが本来の価値は、製品に対する市場のリアルな反応を短期間で確認できる点にある。
実際、ある海外調査では、報酬型クラウドファンディングの支援者の声をもとに製品改善が行われている例が多数ある。つまり「プロダクトのブラッシュアップ+最初のファン形成」が同時にできる。
自社ブランドを表に出さずに“社内ベンチャー的”に試すこともできるため、新規事業の初期フェーズでの市場検証ツールとして使わない手はない。
株式型は「将来の資金調達インフラ」になる可能性も
株式型クラウドファンディングは、日本では法的な制約からまだ広がっていない。しかし、イタリアのような国では、報酬型と組み合わせて資金調達とユーザー開拓を同時に実現するケースもある。
特に中小ベンチャー企業にとっては、VCや銀行に頼らずに資金を集める手段として現実的な選択肢となりつつある。日本でも法整備が進めば、社外との連携やCVC的な動きとセットで検討すべき時代が来るかもしれない。
“面白いプロダクト”を探すレーダーとしても使える
クラウドファンディングは、自社が出す側でなくても、協業先を見つけるプラットフォームとしても有用だ。KickstarterやIndiegogoなどの海外サイトを定期的にチェックすることで、将来性のあるプロダクトやスタートアップを早期に発見できる。
すでに注目されている段階であれば、販路支援やローカライズを提案することで、新たなビジネスパートナーとして接点を持つことも可能だ。
クラウドファンディングは“実験場”として活用せよ
クラウドファンディングは、ただの資金集めやPRツールではない。不確実な新規事業の初期検証、初期顧客との接点づくり、協業先の探索など、多面的に活用できる“実験場”なのだ。
すぐに大規模に活用する必要はない。だが「市場と早くつながる仕組み」として、まずは報酬型から試してみるだけでも、思わぬヒントや人脈が得られるかもしれない。
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